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翻訳といっても働き方は様々〜スピード感ある業界の翻訳家の日常〜


翻訳家というと、「代表作は?」と聞かれることがある。たいていの人がイメージする翻訳は、書籍翻訳らしい。何ヶ月もかけて少しずつ訳していき、編集者と相談しながら大作を完成させていく…。確かにそんな仕事も憧れるが、正直私には向いていないと思う。

翻訳といっても、業界や専門によって様々な仕事が存在する。そして、働き方のスタイルを大きく左右する要素の一つが「タイムスケール」。


私の専門は、広告、マーケティング、映像制作の分野である。代理店のピッチプレゼンや、絵コンテ、脚本、字幕、メディア運用代行の報告プレゼンなどなど...内容は様々だが、共通点は依頼から納品までのタイムスパンが非常に短いこと

この業界はスピード感がすざましい。代理店も、制作会社も、監督や編集者も、キツキツのスケジュールで動いている。そのため私のところにも「この2ページを今夜までに」「月曜に届くプレゼンを水曜までに」などと言った依頼が日常的にやってくる。


文句を言ってるのではない。むしろこのスピード感でないと、私はやっていけないと思う。


私ほど 「procrastination (やるべきことを先延ばしにすること) 」という言葉が似合う人はいない。

タスクにかかる時間は、与えられた時間の分だけ伸びる

とい言葉をどこかで聞いたことがあるが、本当にその通りである。時間をたくさんいただいても、私は結局ギリギリまでサボってしまうだろう。どんなにコツコツやろうと思っても、「残り時間」と「必要な時間」が一致するまでスイッチが入らない。逆に、一度スイッチが入ると急に人が変わったように作業にのめり込む。

だからこそ、少ない量を短い時間で仕上げるという業界のスタイルが性に合っている。時間的プレッシャーがあった方が集中力・想像力が上がり、いいものを仕上げられるのだ。


旅をする身としても、固定の時間(平日の9時5時)を拘束されるより、「働く日」は土日だろうと朝から晩まで働き、「遊ぶ日」は平日だろうと思いっきり遊ぶというスタイルの方が合っている。


1週間なにもせずに過ごせる時もあれば、2-3日缶詰ということもある。外出をほとんどせず、食事も雑になって、何十時何もパソコンに釘付けの状態。そしてやっと納品のメールを「ポチッ」とすると、開放感とも達成感とも違う、不思議な空虚さを感じる。

久しぶりに日光を浴び、夢から覚めたように自分が誰なのか、ここはどこで、今は何時なのかということをゆっくりと思い出す。漫画家や、プログラマー、映像編集者も似たような経験をしことがあるのではないだろうか。


まさに冬眠から覚めた熊のよう。
お腹を空かせて、眩しそうに目を細めながら、春の森へと繰り出す。


今まさに、そんな熊になった気分でビールをすすって一息ついている。明日は何もしない日にしよう。


2020年12月7日   神奈川県相模原より
もえん

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