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「正欲」を読んで



オードリーの若林さんがとある番組で、「自分はコメンテーターはやりたくない。なぜなら街で急に叫んじゃう人の気持ちが分かるから。ただ、世間はそんな意見を求めていないし、製作にかかわる人にも迷惑がかかってしまう。」と発言をしていたのをよく覚えている。

自分にも似たエピソードがある。学生の頃母親と警察24時的なテレビを見ていて、女性の前でコートを広げて自分の恥部を晒した男がいるという無線を受け、警察が出動する場面が流れていた。
母親が「なんでそんなことするんだろう」と言ったので、「女性の驚いた顔のまま固まってしまうことに興奮するんだと思う」と答えたら、「そんなわけないだろう」と言ってきたが、男性の供述で「女性の驚く顔に興奮するから」とナレーションをしていた。その時、母親は自分に何か言うわけでもなく、妙な静けさが二人の間に漂っていたことをとても覚えている。

自分に女性の驚く顔を見て興奮するという性癖はない。ただ、想像することはできる。


そもそも人間(ホモサピエンス)は、分類(カテゴライズ)してしまう動物だと何かの本で読んだ。
男と女に分類し、「異性愛者」と「それ以外」でまず分類した。そして「それ以外」の中でも「LGBT」というカテゴライズをして、「それ以外」のなかでもさらに分類した。そうなると勘づく人がいるかもしれないが、分類することによって必ず「それ以外」の人が作られてしまうのだ。
もともと「それ以外」という大まかな分類をしていたところに「LGBT」というカテゴライズができ、ただえさえマイノリティということで少数派の中にいたとしても、自分達はLGBTにすら属さない少数派に勝手に分類されてしまう。

そもそも「LGBT」という区別をして得をするのは学者だけだ。自分たちが研究対象として勝手に区別して、勝手に「それ以外」の人を作る。そして学者が作った「LGBT」という言葉をマジョリティの人たちがファッションのように多用して自分のイメージ向上の道具にしてしまう。そして、自分達の想像の範疇を超えた性的嗜好に出会うとまるで腫れ物みたいに扱う。


話を本に戻すと、浅井さんは「正欲」とタイトルをつけた。では、正しい欲とは何か。

人間の三大欲求である睡眠欲、食欲、性欲。睡眠欲と食欲はたしかに裏切らない(かもしれない)。ただ、性欲はだけは裏切る。自分の性的指向を満たそうとすると犯罪になってしまう可能性がある。小児性愛者、レイプをしたい人、された人、痴漢。また、性の対象が人間ではない人たち。皆と同じ性欲はあるのにそれを話すと嫌悪される人たち。三大欲求の一つである性欲で苦しんでしまう人がいるならそろそろアップデートするべきだと浅井さんは考えたのだろう。

そこで考えたのが、生きていたいと感じる欲求。
「生欲」
それこそが性欲に代わる新しい欲求ではないか。例えどんな理由、生まれ、嗜好であれ、生きたいという欲は誰からも否定されるべきではないし、誰でも誇りを持っていい欲だ。
マイノリティな性的嗜好で苦しんだり、絶望的な環境の親の元に産まれたり、味方がいない環境で生活をしないといけなかったりしても、「生きたい」「生きていたい」という欲求は等しく尊重されるべきだ。

ただ、これだけでは性的嗜好がマイノリティの方の希望にはならない。根本的な問題が解決されていない。

「分類さえしなければ苦しむ人がいなくなるんじゃない?」と思うが先述した通り、人間は分類をしてしまう特性がある。全てを分類するにしても限度がある。

ならどうすればいいか。ここからはあくまで自分の考えだが、マイノリティであるとかの前に「あなたである」ことを認識することが大事であると思う。どんな性的嗜好であれ、どんな趣味であれ、まず「あなたはあなたである」。その人のことをマイノリティで分類するのではなく、「あなた」という分類をすれば苦しみが少しでも減るのではないか。その人自身をしっかり捉えて認識することが解決策にならないかと思う。


ただ、この本のあまり好きではないところもある。
それは最後が少し無責任なところだ。性的少数派で苦しむ人はこの世界にたくさんいる。そんな中でこの本を書いたなら、その人達の希望にならなければダメだ。なのに、この小説のキーマンとも言える、性的少数派であるが故に世界が憎くて憎くてたまらない諸橋大也の最後があまりにも無責任すぎる。
たとえ自分が性的少数派でなく、自分の特性上この世界が憎くて苦しんでいる人がいるのにも関わらず、あのような終わり方では誰もが路頭に迷ってしまう。
少しずつ八重子との関わりで世界を肯定しようとしていた矢先、あのようなことが起こって、その後日談もなければ、結局この世界は恨む対象でしかなくなってしまう。もう少し希望を持たせて終わって欲しかったと思う。

まだ言いたいことの1/3くらいしか書けていないが、これ以上書いても「もう知らんわ」と思われそうなので、ここまでにしときます。


読んでくれてありがとう。ご自愛ください。


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