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人間万事塞翁が馬

ある日、私が敬する上司のジャーナリスト嶌信彦氏に「文章で食べていくなら、いろいろ自分のことを書いてみたら面白いのでは。せっかくだから文章を書くきっかけから始め、ここでの仕事も含め書いてみたら。普通の人が経験していないことも、いろいろあるだろうし。」と薦めて頂いた。折角の機会なので、お言葉に甘えこれまでの人生の振り返りや雑感をこれから書いてみようと思う。

最近、本格的に文筆業への道を進み始めた。一筋縄ではいかず、些細なことに一喜一憂している。おそらく、長い付き合いになりそうなので、なぜ自分が文章を書くことを生業にしようと思ったのかを書き残すことにした。

思い起こすと今から10年ほど前に遡る。私は敬愛する先輩に紹介いただきジャーナリストの嶌信彦氏の秘書として働くことになった。スケジュール管理など多岐にわたる仕事の中で、実はある一つの仕事が自分の運命を変えていった。それは、嶌氏が書いた手書きの原稿をワードに入力する仕事で、続けるうちにニュースの面白さに魅了されていった。嶌氏の原稿はテーマが非常に明快で、かつ熟慮の機会を与えてくれる。このおかげで文章の流れや表現が知らぬ間に身についていった。

嶌氏は毎日新聞を経て、フリーのジャーナリストとして経済、政治、国際情勢などに精通され、テレビなどのニュース解説やコラムが、簡潔明瞭でより深く考えるきっかけを作ってくれると定評がある。驚愕のエピソードは枚挙に暇がないほどで、例えば激動の1998~1999年にかけ東欧やソ連の取材をされ、1998年12月29日のビロード革命が終わる前日にチェコ初代大統領のハヴェル氏にインタビューをしている。ハヴェル氏はラフなセーター姿で登場し、「今晩から明日がヤマ場になると思うが、もし革命が成功したら、翌日ヴァーツラフ広場に面した建物のバルコニーに立つことになるから」と言ったそうだ。実際に翌朝、大統領になり集まった多くの国民に手を振る姿を目撃している。

1989年12月、新しく選出されたハベル大統領による演説(出典:チェコツーリズム)

私は新卒で秋田銀行に入社し、シティバンクなどに転職したが、金融業界の新しい価値を生み出さずに高額の報酬を得られる仕事に生きがいを見いだせず、そこからはみ出した人間だ。対価に報いるために懸命に働いたが、この対価の大きさに魅力を感じることは少なかった。しかし、後に文章で食べていくことを決意すると同時に、偶然、金融と英語のスキルを両方生かせる仕事に出会う。金融業界で働くことはもう二度とないと思っていたが、嶌氏の文章を読み、話を聞いているうちに興奮を覚え、文筆業の魅力を感じるようになり、ひょんなことから執筆の世界に足を踏み入れることになった。最近、文章を書くことが非常に楽しく、充実した日々を送っており人生何が起こるかわからず、まさに「人間万事塞翁が馬」だとシミジミ思う。

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