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「都」構想の先取り 市立支援学校の府移管で何が起こったか

 大阪府・大阪市には、すでに「大阪都」構想=大阪市廃止の先取りで、廃止されたり、府に移管されたりした施策がある。

 2016年には大阪市立支援学校12校が「二重行政」として廃止され、大阪府に移管されることが起こった。当時、保護者や教職員には「府に移管されても何も変わらない」と説明がされていた。
 今、大阪市廃止=「大阪都」構想を推進する人たちは、市の財源や権限が大阪府に移管されても「住民サービスは低下することはない」と主張している。

 では、府に移管された支援学校の現状はどうなっているのか。本当に大阪市立時代と変わったことはないのか。

 大阪市立支援学校で37年間働き、府移管後に退職した元教員の久保知子(くぼ・ともこ)さんから話を聞いた。

──大阪府と大阪市は「二重行政の見直し」として、2016年に市立支援学校を府に移管しました。


 まず言っておきたいことは、市立と府立の支援学校があることは二重行政でも何でもないということです。
 支援学校の設置義務は都道府県にありますが、他の政令指定都市の横浜、神戸、名古屋、京都、堺市などにも市立の支援学校があります。大阪市民の子どもたちが市立支援学校に通い、大阪市と堺市以外の府民の子どもたちが府立の支援学校に通う。誰も両方の学校に通ってなどいませんでした。

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──府に移管される以前、大阪市立支援学校にはどんな特徴ありましたか。


  府に移管されて、行政とのやり取りの困難さは実感しました。大阪市立の時の方が市教育委員会との距離が近く、学校や保護者の声が行政に届きやすかったです。

 支援学校には、「教諭」の他にいろいろな職種の人が働いていますが、その中に、「実習教員」の先生がいます。「教諭」の数は法律で定められているため、なかなか増やしてくれませんでしたが、大阪市独自で配置できる「実習教員」は、特に多くの人手が必要な肢体不自由の子どもたちの学校には、2人配置が一般的な中、粘り強い要望によって、多い学校では11人の実習教員の先生が働いていました。

──他に大阪市が独自にとりくんでいたことはありますか。


 医療的ケアを持つ子どもたちの通学について、スクールバスに乗ることができない、気管切開をしている生徒さんが、限られた回数ではありますが、看護師さん同乗の福祉タクシーに乗って通学できるようにもなりました。

 これは粘り強い保護者の方々の要望の賜物でもありますが、保護者や学校の声が届きやすい分、大阪市では少しずつ改善されてきたものがありました。

──大阪市立支援学校の廃止と大阪府への移管が提案された当時、親や教職員の中でどんな議論があったのですか。


 市教委も府教委も、「何も変わらない」という説明を繰り返していました。保護者・教職員の「そうなのかな?」という思いを乗り越えるため、具体的な事例を示しながら府移管反対を呼びかけました。

 例えば、先に述べた実習教員の配置について、府教育委員会とのやり取りの中で、府は「標準法通りの配置とします」と明言したことを示し、「これでは各校におられる実習教員は大幅に減らされる」と訴えました。


──他に当時から心配されていたことはありますか。


 給食について府教委は「移管後3年で完全に民間に委託する」と言っていました。そして、保護者への説明会で「(給食は)民間に委託されても何も変わることはありません。メニューが自由に選べて給食の楽しさが広がります」旨の説明をしたと聞きました。
 しかし、民間頼みの給食は、業者によって当たり外れがあり、調理員さんの入れ替わりも頻繁にあり、ひどい事例では、調理員さんがみんな辞めてしまい、急遽、府教委が人を配置して何とか乗り切って給食を提供することができたという学校がありました。
 私たちは民間委託の問題点を示しながら、支援学校における学校給食は、まさに命と直結する、本当に大切なものであることを訴えました。


──府移管が行われ、どんなことが起こりましたか。


 府に移管され、とにかく予算が大きく削減されました。
 大阪市は保護者負担をなるだけ減らそうという方向で、画用紙や粘土などの教材は校費で購入していましたが、府では、それらは原則保護者負担でした。教材費は市立の学校は府立に比べ、1校あたりでみると2016年度で約4倍はありました。それがわずか数年で削減され、2019年度は1校あたり約2倍、今は同額になっていると思います。
 図書室の本の購入費は、大阪市の時代は年間50万円、府立になって9万円に減りました。

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 実習教員は8人から11人いた肢体不自由校も軒並み2人になりました。
 私たちは府教委に「府立と市立の高い方に合わせて教育条件の向上を図るのがスジではないか。低きに合わせてどうするんだ」と迫りましたが、府教委はダンマリでした。


──久保さんから見て、今、大阪府・市の教育にどんな施策が必要だと考えていますか。


 もちろん、先生・学校予算を増やして、豊かで楽しい教育実践ができるようにすることですが、まず学校建設です。
 府教委は今後6年間で知的障害児の児童生徒数が1,400人増えるとしながら、学校建設は600人分の2校しか考えていません。あとの800人は、図書室や音楽室などの特別教室を普通教室に転用したり、通学区域割を変更したりして、しのごうとしています。
 日々障害や病気とたたかっている子どもたちに対して、極めて不十分な方針しか出していません。

 私は、重い障害をもつ子どもたちの教育・福祉は、より身近な行政が責任を持つべきだと思います。
 遠くにいては、弱い立場で小さい声しか出せない人たちの声をしっかり受け止めることはできません。弱者の思いを汲むことができないようでは、行政の責任を果たしているとは言えません。


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