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『チノ語録 完全版』ができるまで

去年つくった、漫画家・幸宮チノ先生のツイートをまとめた『チノ語録 完全版』ですが、この作業で得た記録もの同人誌制作ノウハウも大きかったので、まとめてみます。

なにはともあれサイズを決める

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『チノ語録』は文庫本サイズ・本文1色刷り・フルカラーカバーという仕様です。こういう仕様は、わりとやりたがるひとが多いとみえて、印刷所にセットメニューが用意されていることもあるので、意外とつくりやすいかもしれないです(オフセットでふつうにやろうとすると、カバーがあるので印刷代はそれなりにかかると思いますが、今の時代はオンデマンドで1冊から、とか選択肢もいろいろあるみたいです)。

何か本をつくろうとするとき、装丁から入るというのはわりと近道だと思います。紙の本は、現実に存在するものなので、まず「サイズ」を決めないことには、ページ設計やレイアウトのやりようがないからです。『チノ語録』の場合は、最初から完全ステルス文庫本を狙うつもりだったので(これは最初の無印チノ語録をやってたときから考えてた)、その時点でサイズもページ数もだいたい固まってて、迷いがなかったです。

(漫画原稿の場合は、ひとまず一定の大きめサイズで描いておいて、状況に応じて縮小することもあると思いますが、あれは縦横比が一定で、高解像度2値だから使える手だと思います。サイズとか装丁とかはあとで考えたい、先に原稿に集中したいという場合は、あとからどうとでもなりそうな形式、たとえばサイズ大きめの高解像度2値とか、パスとか、プレーンなテキストとか、で作業するといいのではと。)

装丁がノーアイデアの場合、逆に、印刷所のセットメニューなどを比較して、予算におさまりそうなものを探しながら、装丁を考えてみるのも手だと思います。印刷所に入稿して同人誌をつくるのが初めてで、印刷代の見当がつかないなら、なおさらセットメニューから見てみたほうがいいんじゃないかと。価格は印刷所によっても違いますし、高いな、と思ってても早割を使うと(明確な締め切りのない今ならマックスで使えますし)他と変わらないところまで下がったりします。セットメニューがなくとも、「こういう仕様だとこれくらい」という例を出してくれているところもありますし、見積もりとれるとこもあると思います。

何はともあれ、サイズと予算を固めてしまわないことには、ページレイアウトを具体的に進められないと思います。わたしも、構想段階で印刷所にサイズと予算の相談を入れて、サイズを確定させてから、原稿をつくり始めてます。どのみち紙目の関係で、使えない紙などもでてくるので、先に決めておいたほうが安心してとりかかれると思います。

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表紙はファーストヴィンテージに金インク刷りです。なんかの文庫本レーベルのひとつ、みたいな感じのデザインにしました。所属してるの1冊だけだけど。

表紙に使える紙を、セットのデフォルト(加算なし)でけっこういいの選べたりするのが同人誌のよいところなので、「この中から選べます」っていうのをチェックしてみると、「えっこれ使っていいの!?」とか発見があります。ジャンルにもよりますが商業誌だと予算的に白ボール一択で、それじゃなくって風合いある感じにできるの、地券紙くらいなんです。わたしの本いつもねずみ色のボール紙なのは、地券紙にしてるから。

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カバーはハイマッキンレーアートにCMYK4色刷り、グロスPPです。いわゆるふつうのカバーみたいな感じになります。カバーは、トンボを打てる環境が(PDF変換時の自動含めて)ないと、なにもない状態からデザインするのは難しいのではと思うので、カバーつくらせてくれる印刷所なら、たぶんテンプレートが用意されているんじゃないかと思います。ためしにのぞいてみたワンブックスさんは、背幅刻みで細かく用意されてました。1冊からつくれるところなので、いつか使ってみたいと思ってる印刷所です。

http://red-train.co.jp/onebooks/genkou/onebooks_template

カバーはCMYKを混ぜて色をつくらない方式でデザインしてます。網点を出したくないときに使える手です。あと、特色使ってないけど使った感だせます。

カバーのメイキングもツイートしてました。けっこう長かったので最初のひとつをおいときます。クリスタに慣れておくと、漫画系の線画もらったときの処理が圧倒的に楽になります。効果線足したりとかもできるし。クリスタの機能、イラレのパスがわかってれば、ブラシ感覚で使えるものが多いので、デザイナーには意外ととっつきやすいかもしれないです。

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表1の下のほうあけたのは、これやりたかったからです。

この帯はセブンのネットプリントで配布してました(もう終わってます)。帯つけるほどの予算がないけど、あると面白いときに使える手です。チノちゃんがオリジナルまんが描いてくれました。

セブンのネットプリントの場合、jpgみたいな画像だと、サイズがそのままでてくれないんですよね。微妙に縮小される。帯みたいに、現実のサイズに合わせないと支障がでてくるものの場合、この影響がでかい。いろいろやってみたところ、A4とか紙の規格サイズに合わせたPDFを登録すると、原寸ででてくるというのがわかりました。jpgみたいな画像の場合、原寸に近づけるためには、余白をカットしたサイズにするとよいみたいです。

ここの真ん中あたりにサイズかいてあります。

http://www.doujinshi-print.com/manual.html#manual08

データを編集する

で、肝心の中身の編集作業なんですが、過去のツイートを集めるだけだからもう原稿あるようなもんだし簡単でしょ、って思ってるかたも多いと思いますが、アイツのツイート数を舐めちゃいけない…。どうやったかというと、チノちゃんからツイートログをもらって、月ごとにRT数とFAV数でランキング集計するプログラム組んで振り分けてもらいました(プログラム組めるひとに)。それでも12ヶ月が10年分あるので、120ファイルは目を通さなければいけないという(もちろんきりないので上のほうしか見てないですけど、初期のころは単純に反応数だけでは面白さが判断できないので、けっこう下のほうまで見てました)。

さらにそのなかから年ごとにピックアップしたものをまとめて(こんな状態)

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作業したデータを引っ張り出してきてたまたま開いてみたそのページで、選からは外れてるんですが、ロトのチャリが今なんかツボった。このデータ、忘れた頃に開くとまた読んでしまいます。すさまじい分量だったんですが、目を通すのがぜんぜん苦じゃなかったのは、根本的におもしろかったからです。チノちゃん、漫画家なのでセリフを練り慣れているというのもあるのかもしれないですが、短いテキストのなかに深い情景を描く、というのがすごくうまいと思います。

そもそもなぜ完全版をやろうかと思ったのかというと、最初のチノ語録はページ数の関係で、20首くらいしか入れられなかったんです。そのとき、とりあえず候補をフレームにつっこんでカードにした状態で、ふるいにかけていたのですが、その外したカードのほうも、あとで見直すとやっぱり面白かったので、もったいないなと思って。かるたにしたい。

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選んだものをプリントアウトして短冊状にして、ジャンルとかネタごとに分類しました。データでやれよ、って思うでしょうが、あまりにも件数が多いとわたしの場合、データよりも「このジャンルは机のこのへんにある」みたいな記憶のほうが強くて早いので。同じ内容をツイートしているものもあるのですが、微妙に言い回しとかてにをはが違ったりするので、並べていちばんいいのを選びました。チノちゃんのツイートは基本的に落語のようなものだと思っているので、同じ演目のなかで、いちばんよかった日の録音を選ぶ感じです。

紙面のデザイン

フレームは数種つくったんですが、見開きに4種配置したマスターをつくってそれだけ適用すると(InDesign上でのはなしです)、さすがに金太郎飴状態なのを気づかれてしまいます。左右ページに同じものを配置したマスターを何種類かつくって、ランダムに適用することで、偏り感をなくしています。ランダム配置のマスターを2、3種だと、どれを適用したかだんだんわからなくなってくるし(まあページパネルみたらわかるっちゃわかるんですが)、なんだかんだんでランダムもパターン化してくるので。

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上と下を入れ替えたものも用意。

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長文用に1ページ使うものも用意。

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組み合わせると自然な感じでばらけてくれます。最初の仕込みが面倒だけど、どうとでも組み合わせできるようになります。あと、沼系はペンラ持ってる僧侶ちゃんのとか、格言系はめんそうりょちゃんとか、いちおう考えてはいる。細かくバラしておくと、そういう融通もききます。

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本の見開きをデザインするとき、初心者は忘れがち、慣れていてもうっかり軽く考えがちなのがノドの存在なんですよね。こんくらいあけときゃいいだろ、と雑に作業してて(版面の面積が欲しいというのもあり)、あとになってから、あと3ミリくらい要るかも…ということがわかり、全ページ調整するはめになってたりしました(マスターにあるものならいいけどさ)。いまは保険かけて、基本的に広めにとるようにしています。

平綴じ冊子の場合、本のサイズにあんまり関係なく、だいたい1.5センチから2センチくらいノドに食われると思います(ほんとうにうすいほんだともうちょい狭くて済むかもしれないけど)。たとえばB5サイズの本を、カットして文庫サイズにしたところで、ノド部分は変わらないでしょう。なんとなく本のサイズに対して、相対的にノドのアキも変わるような気がしてしまうけど。本のサイズが小さいと、ページに対するノドエリアの占有率が高くなるので、面積的なコスパでいったら、文庫サイズよりA5とかB6のほうがいいのかもしれない。でも文庫サイズって魅力的ですよね。

『チノ語録』の場合、ページを自然に開いた状態で、左右ページのフレームの間に隙間が見えるように調整しています。フレーム自体は可読性なくていいんですが、かといってあんまりノド側まで使うと、左右のフレームがくっついて見えてしまうんですよね。ノドからフレームの端までを2センチくらいとっていると思います。

ページが文字で埋まっている一般的な小説の場合、ノドのあき具合で、左右ページの文章がひと続きに繋がって横長の長方形に見えるとか、左右ページで分かれて見えるとか、そういうコントロールができると思います。手元にある小説本を見てみると、前者のほうが多いような気がする。きっちり計算したつもりでも、ページ数とか糊の入りかたでうまく繋がらない(逆にノド側の行どうしがくっつきすぎてほかの行間より狭くなっちゃうとか)ことも考えられるので、印刷所に適正なノドの幅を聞いてみるのもいいかもしれないです。こんな感じで、ノドのあき具合って、本の見た目のこなれ感にも影響するので、早い段階で考えてたほうがいいですね。

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ツイートの文字数はもちろん差があるので、それを前提にいくつかルールを決めて運用しました。こういうの、フォントサイズとか行揃えをひとつに決めてしまうと、「ザ・資料」みたいな感じになるので、エンタメのときはゆるく構えたほうが自分の首を締めずにすむかと。ただあんまりいきあたりばったりだと、収拾つかなくなったりするので、最低限のルールはあったほうが、秩序があるように見えて落ち着くかも(自分も)。これは『diablogue.』のフリーダム組みでも、写真は白銀比か黄金比でトリミングする、みたいなのと同じです。

https://alice-books.com/item/show/2755-23

『チノ語録』の文字配置もこれの応用(というか語録やるなかで見つけたノウハウ)です。

Webにあげた画像を再利用するとき

収録したいけど、昔のデータすぎて、元データが残っていない…ということ、あると思います。『チノ語録』ではよくありました(HDごと飛んでいたとか)。

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この画像は、元は595x842pixel/72ppiの画像だったんですが、レイアウトして縮小すると257ppiまで上がってました。元画像これ。これしかなかった。実際のツイートから拾った。

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なぜ緑がかぶさっているのか、なぜタイトルが黒じゃないのか…といろいろ疑問に思いながら(たぶんネット上げるときの再利用対策だと思いますが)、チャンネルミキサーで白黒化。なんとかなります。この漫画、バズりまくった挙句、海外でまるっとパクられていたりしたのを見てたので、「これがオリジナルだよ」という主張のために、入れときたかったんですよね(わたしが)。

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スマホで撮ったような写真だと、いまどきは解像度というかピクセル数多めなので、まず問題ないです。これは288ppiになってました。

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「漫画家死亡かるた」はハッシュタグ企画だったんですが、まとまった量あったのでコーナー化しました。フレームにはめるのはラクっちゃラクなんですが、マンネリ化するので、こういう仕切りがあるとメリハリがついてよいです。このページ、原稿のつくりかたとしていろいろ問題がありすぎるページだったんですが(わたしの雑な作業のせいです…)、緑陽社さんがきれいに印刷してくださいました。

冬コミの時期にはこういうネットプリント企画もやってました(今はやってません)。いま考えると虚無本ですね。

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『チノ語録 完全版』は以下の2店に委託しています。再販できない仕様なので、こちらにあるだけです。おはやめに。

https://alice-books.com/item/show/2755-24

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=520281







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