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東京まで歩く三日目 亀山〜石薬師〜四日市 24/10/04

今日は桑名か四日市か。元々そのような検討があった。けれども、昨日はあまりにも過酷な行程であったし、そもそも今日も雨が降るという予報になっていたので、今日はあまり遠くまで行かず、桑名ではなく四日市市を目指そうという話で父親と合意した。朝食バイキングをたっぷり食べてホテルへ出ると、確かに雨が降っていた。更に、どうもあまり涼しくない。昨日はとんでもない大雨ではあったものの、気温はかなり低かった。それと比べると妙に暑かったのが今朝で、勿論湿度も高く、これは今日もあまり快適に歩けないのではないかと、不安になりながら足を動かし始めた。亀山の中心街である亀山城址や亀山市役所の周辺を歩いていると、通勤や通学中の人々と多くすれ違った。亀山の街には、歴史を解説してある亀山市の看板が多数立っていた。亀山という街は歴史を大切にする街なのだと感じたのであった。

亀山市内を歩いていた時には一旦雨は止んでいたが、中心街から離れて国道一号線に戻ると、例によって大型トラックが何台も走っていて、昨日の道を彷彿とさせるうるささがあった。彷彿とさせるというより、実際昨日と同様であったと言った方がいいかもしれない。更に、これは昨日から再三感じていた事であるが、そもそも現在地が人口密度の低い地域であるという事は言うまでもないとして、それに加えて尚、一号線等の大きな幹線道路は、人口密度の低い地域でも更に人口密度の低い箇所を通っている場合が多いのである。これもまた言うまでもないが、そんな道を歩いている人間は皆無である。総じて以て非常に孤独を感じるし、大型トラックの大きな音は生存的な不安に繋がる。

もっともっと言えば、これは特に昨日と今日に感じるが、そのような滅多に人が歩かない幹線道路の歩道は、大概草刈りがされていないのである。不十分どころか、まったくされていない。時折植物によって歩道が完全に塞がれている箇所もある。これは本当に酷く、実害は計り知れないし、そもそも風紀の問題としても論外である。私は思う。もしかすると、人が歩く環境というのは江戸時代の方が整備されていたのではないか。このような幹線道路では人間らしさが担保されていない。当然広がっている景色も単調である。歩けど歩けど、何時までも同じ景色が広がっている。場所によっては防音壁の影響で景色すら見えない。

そのように延々と歩いていると、唐突に「佐佐木信綱記念館」なる施設の案内看板を発見した。延々とつまらない道を歩いていていい加減疲弊していたので、休憩も兼ねて、その記念館に寄ろうという話を父親に振った。是非行こうという話になった。一号線から一本脇道に入り建物の玄関に差し掛かると、なんと入場料無料と書いてある。そして、私は大きな勘違いをしていたのである。「佐佐木信綱」と聞いて私は、てっきり近江源氏の佐々木氏の何某かだと考えていたのであるが、実際の「佐佐木信綱」は、明治から昭和にかけて活躍した歌人であったのである。その歌人の記念館という訳である。恥ずかしながら私は佐佐木信綱を存じなかったのであるが、これはまた、思わぬ形で新たな文学者と出会ったものだと、妙な満足感があった。館内では歌集や年表が展示されていた。当然、雨の音も大型トラックの音も聞こえない。非人間的な空間から、文化的で穏やかな空間に入ったと思った。

その後は、その道中にあった豚テキ屋に寄って昼食を済まし、また一号線へ戻って、もうひと頑張りといった具合であった。40分程歩いて、ようやく四日市市へ入り、四日市駅行の別の道へ入った。交通量はそれなりにあったが明らかに生活道路であり、民家も急に増えて、ようやく本格的に安心した。更に、四日市あすなろう鉄道の内部駅等もあって、久しぶりに鉄道を見たような気がした。そうして四日市の市内を中心に向けてどんどん歩いてゆくと、もっともっと、民家も商業施設も増えていった。更に、歴史的な風情の残る旧東海道も復活した。孤独で、不安な、非人間的な行程は終わったのだろうか、ここで安心をしてよいのだろうかと、身構えつつ、されど何処かで安心しながら、旧東海道を北上した。すると、いよいよ近鉄名古屋線の高架が見えた。もう少しだと己を励ましながらもっと北上をすると、遂に、人口30万人都市四日市の中心地、近鉄四日市駅に到着した。辺りにはビル郡があったし、当然の如く近鉄百貨店もあり、更には、夜には賑わいをみせるであろう駅前の飲み屋街もあった。そして、その頃にはもう雨も止んでいた。四日市という街はこれ程に活気のある大きな街だったのかと、これまでの行程との比較もあり、何かから解放されたような気持ちになった。四日市という街は工場だけの街ではない。人が行き交う、生きた街である。近鉄特急も何本も停車していた。

そんな妙な感動を覚えつつ、四日市駅からもう少しだけ歩いて、今夜の宿へ到着した。最早言うまでもないが、今日は桑名を目指していなくて幸いであった。距離は昨日の方が長かったものの、結局今日は昨日と同じぐらい疲弊してしまった。今夜もゆっくり休むという事が、明日の事を考えると必須であろうと思う。勿論湯船に浸かるし、雨で汚れた衣服はコインランドリーで洗濯をし、マッサージもしっかり行う。そうして、宿のテレビの音を聞きながら、休むのである。先程書き忘れたが、四日市に入った頃からは、急に気温が下がったような気がした。この長旅で注意せねばならないのは体調不良である。まだまだ冷房を使わねばならない環境ではあるが、電気代を気にせずとも良い事を理由に冷房の温度を下げ過ぎないようにしたい。寒暖差に気を付けて、しっかり布団を被って、寝たいと思うのである。明日は遂に熱田まで歩く。明日もまた、長丁場である。

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