【ショートショート】「この町の秘密」〜古蓮町物語シリーズ 11〜
僕は見てしまった。
この町の秘密を。
この町は様々な目で監視されている。
夜になると、監視の目が光り始める。
おそらく昼間もあの目はあるのだろう。明るいから気付かないだけだ。
この事実を知ったのは単なる偶然だった。
子供神輿作りから帰る途中、傘を忘れたことに気付いて集会所へ戻った。再び帰路についた時には辺りは暗くなり始めていた。
———早く帰らないと。
僕は歩を速めた。
人影のない道。
暗くなってきた空。
闇を深くする周りの木々。
どこからともなく聞こえる犬の遠吠え。
街灯がほとんどないこの町は、日が暮れると一気に夜の帝国へと変貌を遂げる。
その時だった。
僕を囲むように、監視の目が光った。
僕の動きを何十、何百もの目が様子をうかがっている。
———殺される。
それは直感だった。
———早くこの場を脱出しないと。
体制を低くした僕は、傘をリレーのバトンのように持ち、右足の親指に全体重を乗っけて一気に加速した。
相手も意外だったのだろう。
しばらく監視の目はついて回ったが、家に近づいた時には完全に振り切っていた。
何とか一命を取り留めたが、恐怖を拭い去ることはできなかった。
夜出歩くのは危険だ。
夏祭りのときは大丈夫なのか? いや、昼間でも安心できないのではないか?
おじさん、おばさんに言った方がいいのだろうか?
でも、この街の人がみんなグルだったら……。
いやいや、おじさん、おばさんがそんな人のはずがない。
でも、このことを言った瞬間に豹変したら……。
みーちゃんとかやまちゃんに相談してみようか?
やまちゃんは去年からここに住んでいるから、何か知っているかもしれない。
でも、2人をこんなことに巻き込みたくはない。友達を危険な目に合わせるなんて。
次の日になっても、僕はどうすれば良いか考えていた。しかし今日も子供神輿作りに行かなければならない。
集会所に行くと、やまちゃんが僕に話しかけてきた。
「なぁ、リューチン。今日ウチで花火やるんだけどさ、一緒にやらね? みーちゃんも来るし」
「うん!行く行く!」
花火は大好きだから二つ返事で答えたが、夜出歩くことになる……のかぁ……。
夕方、やまちゃん家に行くとき、
『夜一人で子供が出歩くのは危険だから』
と、おばさんもついて来てくれた。
心強い助っ人だ。
やはり、あの監視の目のことを知っているからなのだろう。僕を守るために来てくれるんだ。
———おばさん、一瞬でも疑ってごめんなさい。
心の中でつぶやいた。
おじさんとおばさんはそんな人じゃなかった。僕を心配してくれていた。
花火はやまちゃん家の近くにある空き地で行われた。
ロウソクの火に近付けると、花火はシュッと音を出して煌めき始める。
綺麗だ。
手持ち花火から出てくる色とりどりの炎。立ち昇る煙。独特なにおい。
すべてが夏を物語っていた。
花火大会が幕を閉じて煙が消え去ったとき、それはまた襲いかかってきた。
無数の監視の目が僕たちを囲んでいる。
———こいつら大人がいても襲いかかって来るのか!
完全に周りを囲まれた。
———やばい!
僕は身構えた。
「あ、ホタル!メッチャ綺麗!」
みーちゃんが空を見て感嘆の声を上げた。
———え?
「あはは。みーちゃんホタルは初めてかい?」
やまちゃんのお母さんが問いかけた。
「前に見たことあるけど、こんなにたくさんのホタルは初めて!」
みーちゃんはクルクル回りながら喜んでいた。
———これがホタルなのか……?
初めて見た(2回目だけど)。
一面ホタルで埋め尽くされている。……監視の目ではなく。
「天の川の中にいるみたいだね」
回るのをやめたみーちゃんは、静かに見上げていた。
「そ……そうだね」
拍子抜けしながら僕も見上げた。
ホタルと星の光が重なって見えた。
「ところでリューチン、何でさっきファイティングポーズしてたの?」
みーちゃんの一言は僕の顔面に突き刺さり、真っ赤な炎となって燃え上がった。
「え……? そ……それは……」
ホタルさん、お願いします。
このことを早く水に流してください。
天の川の流れのように。
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