【1000字小説】「スイカの種飛ばし競争」〜古蓮町物語シリーズ⑨〜
ボクはみんなの嫌われ者。
いつだってみんなに疎まれ、邪魔にされ、捨てられて。決してみんなの輪に入ることはない。
でも今日はボクがメインだ。
「リューチン、頑張って!」
暗闇の中、女の子の声が聞こえる。
大きな縦揺れ。
そして勢いよくボクは外へ弾き出された。
太陽の光がキラキラ輝いていた。
「おお!すげぇ!」
男の子の声が聞こえたとき、ボクは着地した。
コロコロと2、3回転がる。
「リューチン、お前の記録、絶対越すからな!見てろよぉ」
坊主頭でタンクトップの男の子が勢い込めて息を吸った。
プッ!
首を大きく前に振った。けれども……。
種はポロンと男の子の真下に落ちた。
リューチンと呼ばれた男の子と、その隣の女の子はお腹を抱えて笑っていた。
「やまちゃん、ねらったなぁ!」
リューチンはまだ笑いが収まっていない。
「と……当然だ!今のはウケ狙い。今度こそ本番だ!」
顔を真っ赤にして全力の言い訳。
どう見たってやまちゃんという子は本気だったじゃん!
「だめー。一人一回でーす。今度は私の番ね!」
花柄の服を着た女の子が前を見据えた。
「みーちゃんファイト!」
リューチンの声援を受けて、みーちゃんの口から種が発射された。
大きな放物線を描く。
ボクの真上を通過したそのとき……
天使を見た。
心を包み込んで癒してくれる天使を。
「みーちゃん、すげ〜!」
やまちゃんは目を丸くして、種が飛んだ方向をしばらく凝視していた。
「さぁみんな、かき氷を作りましょ」
くまさんのかき氷器を持って、大人が現れた。
「おばさん、みーちゃんすごかったんだよ!スイカの種飛ばし。あの茂みまで飛んだんだよ」
リューチンは興奮気味だ。
「なに?このかき氷器!かわいい〜」
当のみーちゃんはかき氷器に夢中だ。
手でクルクル回すたびにくまさんの目が左右に動く。みーちゃんはそれをずっと見ていた。
シャリシャリと氷が削れる音。
リューチンとやまちゃんが交代でハンドルを回す。
「いちご味とメロン味、どっちがいい?」
シロップの瓶を振りながら、おばさんは3人に聞いた。
「僕はメロン!」
「私、いちごぉ〜」
「俺もいちご!ミルク多めで!」
「あ!ずるーい!私もミルク多めがいい!」
おばさんはニコニコしていた。
「みんなミルク多めにするからね」
「やったぁー!」
ハイタッチしながら喜ぶ3人。
最後にこんな光景が見れて良かった。
ボクはいつも邪魔者で、みんなに嫌がられて。
でも、今日はそうじゃなかった。
みんなと一緒に遊べて、楽しそうな顔も見れて、幸せな気分で一生を終えることができる。
みんなありがとう。
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