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もしや双極性障害?うつ病治療中に躁状態になった顛末

 数年前に私がうつ病で通院していた時のエピソードです。

 うつ病の治療が始まって1ヶ月半ほど、抑うつ状態は改善傾向にありました。
 けれどもこの頃、突然意欲が低下したり、イライラしたりと、気分に大きな波がおこっていました。
 担当の医師にそのことを話すと、処方される薬が変わりました。それまでのSSRI(セロトニンだけを増やす薬)を中止し、NaSSA(セロトニンとノルアドレナリンを増やす薬)を服用することになったのです(ざっくり言うと、セロトニンは気分、ノルアドレナリンは意欲に関わる脳内ホルモンです)。
 とりあえず1週間分処方されて様子を見ることになりました。

 すぐに副作用が現れました。一日中猛烈に眠いのです。担当医に副作用のつらさを訴えたところ、量を半分にして服用することになりました(このように、症状に応じて薬の種類や量が調整されていきます。薬によっては1錠の4分の1単位で加減することもあります。向精神薬というのは本当に微妙なものなのですね)。

 新しい薬の効果は割と早く出ました。
 抑うつ症状が軽くなったのです。それまで億劫で出来なかったことがいろいろとできるようになりました。たまっていた家事を片付けたり、あちこち外出したりと行動が活発に。気分も上がってきました。
 ただ、副作用はなくなったわけではなく、眠気はいつも感じていました。

 ところが数日経って、もともとあった睡眠障害がさらにひどくなりました。
 睡眠薬を飲み、抗うつ剤の副作用でも眠気があるにもかかわらず、就寝してから2時間くらいで目が覚め、それきり朝まで眠れなくなってしまったのです。
 でも、それしか寝ていないのに日中は割と元気で、眠気を感じながらも動き回っていました。

 普通はその程度の睡眠時間では体がもちません。どこかおかしいのではないかと思い、次の診察の時に担当医に相談してみました。
 すると、先生は深刻な顔になって、「それ、軽躁状態ですね。もしかしたら双極性障害かもしれない」とおっしゃいました。

 双極性障害(かつては「躁うつ病」と言っていました)は、躁状態と落ち着いた状態と抑うつ状態がローテーションでやってくる疾患です。
 双極性障害で抑うつ状態の時は、うつ病との区別が難しいため、診断まで時間がかかることも多いそうです。
 双極性障害とうつ病は似て非なる疾患。治療法が異なるため、正しく見極めないといけません。

 私の場合、薬が変わったタイミングで躁状態が現れたので、薬が合わないせいかもしれないと担当医は考えました。また、もし双極性障害だった場合、ノルアドレナリンを増やしてしまうと躁状態が悪化する可能性が高いということで、NaSSAは中止になりました。

 しばらくして、私の躁状態は落ち着きました。睡眠障害は依然として続いていましたが、2時間しか眠れない、という極端なことはなくなりました。

 担当医の考えでは、私の場合うつ状態がかなり良くなっていたにもかかわらず、一時的な気分の変化を誤ってうつ病の悪化と捉えた結果、症状に対して薬が過剰になってしまった。それが軽躁状態をもたらしたというのです。
 躁状態が薬によるものだったという判断により、私が双極性障害である可能性は否定されました。

 それにしても、躁状態ってなかなか気分が良かったです。
 私が道で顔見知りをつかまえて、にぎやかに立ち話をしているところをたまたま見かけた夫が、後になって「あの時は怖かった」と言っていました。なぜなら私はそういうキャラクターではないからです。普段は全く社交的でなく、無口で愛想のない人間なんです(おばさんにしては珍しいタイプかも)。人格が変わってしまったかのようにはしゃいでいた私を見て、以前から私を知る人はさぞかし気味が悪かったことでしょう。

 これは私の想像ですが、違法な薬物でハイになる、というのは、たぶんこれに近い状態なのでしょう。そんなものに依存してしまったらたいへんです。
 正しく処方された薬であっても、向精神薬の中には依存になりやすいものがたくさんあります(私の場合、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬に頼らずに眠れるようになるまで、断薬に1年以上かかりました)。向精神薬は、お医者さんの管理のもとで適切に服用したいものです。

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