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農業にAIは必要か?

AIの進歩がすさまじいです。有名なところではChatGPTでしょうか。既に利用している人も多いかもしれませんが、ほとんど違和感なく会話ができますし、物語も作れます。さらにプログラミングなんかもしてくれて、これが無料で利用できる。なんだか昭和の頃にイメージした21世紀が近づいてきているような気がします。

現に様々な産業分野にAIは使われているし、これからさらに拡大していくでしょう。それは人類にとって付き合いの長い、そして重要な農業という産業も例外ではないと思われるでしょうが、少なくとも日本においてはそれがなかなか難しいのが実態だと思います。

なぜ難しいのか、それは「AIを利用するだけの基盤が整っていない」ということです。

こちらの図は、農林水産省が2021年に実施したアンケート調査の結果をまとめたものです。調査の詳細は↓

https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-68.pdf

このアンケートによると、営農記録方法として最も多いのは「ノート」の約46%、つまり手書きということ。次に多いのはエクセル等の21%で、これは一応デジタルデータになってはいますが、記録様式が個々で違うため、データ活用には課題があります。最もAIに適していそうな管理システムは約5%しか使われていません

そしてこのアンケートでは管理システムを使わない理由についても尋ねていて、約半数が「現在の方法で充分」と回答しています。そうなんです、手書きで充分なのです。

これは農業に必要な時間と関係しています。農作物の生産にかかる時間は、数か月に渡ることが一般的で、年1回しか生産しないということも当たり前です。ですから結果を分析して次の生産にフィードバックするといった作業のスピードアップは求められていません。手書きの記録を数か月かけてそろばんをはじきながら、という作業でも対応可能であるが故の「現在の方法で充分」なのだと思います。

しかしAI導入のメリットはスピードだけではなく、これまで見えていなかった新たな知見を与えてくれるということもあります。こちらについてはどうでしょうか。それも残念ながら現状においては活用が難しいと言わざるを得ないと思います。

何故かというと、農業の記録の中には製品そのものの計測データがほとんど無いからです。例えば自動車を作る場合、製品となる自動車本体を製造途中も含めて様々な角度から計測し徹底的に調べるはずです。農作物の場合は最終的に収穫して出荷した時には数量や品質のデータが出てきますが、途中の製造段階では客観的なデータはなく、生産者の感覚によるところが大きいのです。主観的なデータですから、むしろ手書きの記録との相性の方が良いとも言えるでしょう。

農作物は自動車と違って、製造自体は自分の手ではできず、植物の力を使わなければならないことから仕方がないところはありますが、このままでは農業は他の産業分野から大きく遅れをとってしまうと思います。

システムを使用しない理由の第2位は「どのように利用すればいいかわからない」でした。これは単に「使い方がわからない」ということだけではなく、「データを入れるだけ以上の利用方法がわからない」と言っているのだと思っています。ということは、逆に利用の仕方が分かれば使うようになるということ。

データの利用でキーとなるのは、作物の側のデータです。それを簡単に取れるシステムは今のところほとんどないのが現状です。ですからうちの会社では作物の声を客観的なデータとすることをターゲットにサービス開発を進めています。

農業におけるAI活用の究極は、「最終製品の特性を製造初期工程で予測することで、後工程を調整し製品を改善」することだと思います。これが実現できれば農業の現場は一変し、製品である食料をめぐる事情も大きく変わるでしょう。とてもやりがいのある仕事だと身震いしています。


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