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百人一首復習ノート・おかわり(三、四)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。そうはいっても、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することは、短歌に向き合うためには必要なことかもしれない。

教養としてではなく、あくまで自分の作歌のタネとして、作歌のテクニックという実利を期待して、「百人一首復習ノート」として、百人一首の歌の意味と解釈に触れた。

今度は、二周目として、和歌の後ろに広がる世界、短歌の持つイメージ、詩作の楽しみに触れてみようかと思っている。

一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首がペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形で触れるようにしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

百人一首復習ノート(三、四)

三.柿本人麿(かきももとのひとまろ)

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む

(あしびきの やまどりのおの しだりおの
 ながながしよを ひとりかもねむ)

現代語詠み直し

山鳥のやたらと長い尾のように長い夜だな一人で寝るのか

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

頭上の果てから夜の糸が、雨のように降りてきていた。
木々にねむる山鳥の、垂れ下がった長い尾が、地面に
触れて砂を転がす、風を描きながら砂つぶは転がり、
私の眠るまつげにふれた、瞼が閉じて生まれた線は、
頬につながる、耳の模様につながっていく、私の体の
輪郭は地表の一部でしかなかった。ひとり、眠れば、
この地にいる命のすべてと混ざり合って、星として、
息をする。秋の夜が、肺の奥に渦を描いて眠っている。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・天武・持統・文武天皇に仕えた宮廷歌人
・「宮廷歌人」
 天皇の行幸や宮廷行事に讃歌や挽歌など、その場に適した歌を捧げる役目
 ”歌聖” と後に呼ばれる
・天才コピーライターであった
・いろは歌の作者という説もある。
・しかしこの歌は人麻呂の歌ではないと言われる。
・必ずしも一人ではなく大勢の人麻呂がいたと推定されている
 (この作品も長い年月をかけて大勢の人の合作としてしぜんに洗練されていったのでは)
・彼の独創によって作られた枕詞は数十個に及ぶ
 (「玉藻刈る」「夏草の」など)
・「山鳥」は雌雄谷間を隔てて寝る習性があり
 昔の人々は ”山鳥” と聞いただけで直感的に「孤独」「ひとり寝のさみしさ」を感じとっていただろう

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

夜の長さを伝えるために、ひたすらに山鳥の尾の長さを伝える歌。ピーター・マクミランさんは、そのために尾の長さを詩の文字の形にした。現代人に山鳥とひとり寝のイメージの合致がないので、最果タヒさんは、夜の絶望的な美しさにイメージを広げている。うまく現代の言葉に昇華している。

百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(三、四)|のーどみたかひろ (note.com)

四.山部赤人(やまべのあかひと)

田子の浦に うち出でてみれば 白妙の
富士の高嶺に 雪はふりつつ

(たごのうらに うちいでてみれば しろたえの
 ふじのたかねに ゆきはふりつつ)

現代語詠み直し

田子の浦の海に来ましたまっ白な富士山頂にしんしんと雪

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

ごらん、
田子の浦の浜辺にでれば、
見上げるそこに富士山だ。
ごらん、
きみの瞳のなかの、その白い高嶺に、
今も、雪が降っている。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・人麿が叙情歌を得意としたのに対し赤人は自然の美しさを詠む叙景歌を得意とした。
・「人麻呂は赤人が上に立たむ事かたく
  赤人は人麻呂が下に立たむ事
  難くなむありける」
 古今の序に書かれる
・長歌に対しての反歌
「田子の浦ゆ うち出でて見れば真白にぞ
 不尽の高嶺に雪は降りける」
・浦ゆ(田子の浦一帯からのながめ)
 →浦に(田子の浦の狭い浜辺に限定される)
弱められ動きを失っている

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

「浦ゆ」→「浦に」と変わったことで、限定的な映えポイントに焦点を当てる。インスタで風景をバズらせる感覚って、叙景を詠む時に使えるのかな。

※引用図書の紹介

歌人・東直子さんが、現代の短歌として、百人一首を詠み直したもの。

次は、詩人・最果タヒさんが、百人一首を詩として作り直したもの。

競技かるたのマンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀さんが、マンガを描くにあたり、取材したメモを再構成したもの。東直子さん、最果タヒさんが詩情を感じたところが、どういった背景や人物像に立脚したものかを確認するために使おうと思う。


いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。