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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(五三、五四)

『光る君へ』に登場した方々。


普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

五三.右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)

なげきつつ ひとり寝る夜の あくるまは
いかに久しき ものとかはしる

(なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
 いかにひさしき ものとかはしる)

現代語訳

泣きながら ひとり寝る夜は 朝までが
どんなに長いか 知ってるかしら

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Someone like you
may never know 
how long a night can be,
spent pining for a loved one 
till it breaks at dawn.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

 右大将道綱母の母は、摂政兼家の妾妻であった。本朝三美人の一人として小町になずらえられたが、兼家との結婚は性格的なものもあって悲劇に終った。この歌は兼家の夜離れが三夜にわたったので、人に後をつけさせると、身分の低い者の住む町の小路の、とある女の家に入ったという。そのさらに二三日後、兼家が来て門を叩いたが、道綱の母はついに門を開けようとはしなかった。その翌日、色褪せた菊の花にそえてこの歌を贈ったという。季節が過ぎて移ろう花の色に夫を諷したのである。以上の経緯はその日記『蜻蛉日記』の中にある。兼家はこれに対して、「げにやげに冬の夜ならぬ真木の戸もおそくあくるはわびしかりけり」と返歌して、「いかに久しき」という恨みをやんわりとかわしている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

どんな人が詠むかで、だいぶ印象が変わる。きつい人がこれを、この感情をぶつけたと思うと、だいぶこわい。詞書でもない、その人のキャラクターが後世に伝わることで、歌の重みも増す。三十一音以上の情報がずるい。

五四.儀同三司母(ぎどうさんしのはは)

忘れじの 行すゑまでは かたければ
今日をかぎりの 命ともがな

(わすれじの ゆくすえまでは かたければ
 きょうをかぎりの いのちともがな)

現代語訳

「忘れない いついつまでも」は うそだから
今日で終わりの 命にしたいの

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

You promise you'll never forget,
but to the end of time 
is too long to ask.
So let me die today--
still loved by you.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

 恨みや悲しみの恋の歌の多い時代的特色の中で、この一首は、ある哀しみを含んではいるが、悲しんではいない。「行末まではかたければ」も男を信頼していないのではなく、むしろ、「今日をかぎりの」という、激しい一夜の燃焼に賭ける女の思いの浪漫的哀感である。この歌は中関白つまり兼家の長男道隆が通いそめた頃のもので、作者は高階成忠の娘として宮廷女房として出仕していた。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

こちらは、ちゃんと添い遂げて、子どもも偉くなった方。おさえるところはおさえて、しっかりしている人の激情と思うと、よりその熱がトロリと体を伝うかのよう。三十一音におさまらないエピソードが伝わるもの、歌人の力か。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。