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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(七三、七四)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
七三.前権中納言匡房(さきのごんちゅうなごんまさふさ)
高砂の 尾上のさくら 咲きにけり
外山の霞 たたずもあらなむ
(たかさごの おのえのさくら さきにけり
とやまのかすみ たたずもあらなん)
現代語訳
遠山の 峰の桜が 咲いたんだ
手前の山の 霞なびくな
英訳
How lovely the cherry blossoms
blooming high
on the mountain peak.
May the mists in the foothills
not rise to block the view.
解釈
内大臣邸で酒宴が張られた日、「はるかに山のさくらを望む」という題で作った歌。「高砂」は歌枕の「高砂の松」をすぐ想起しやすいが、高い山のこともいう。山に囲まれた洛中からの景として、人々の実感が容易に肯くものをもっていたといえる。端正であるとともになつかしい歌の姿である。
感想
目の前で起きたことばかり詠んでいるけれど、起きてくれるな、ということも詠めるんだな。モヤモヤした気持ちと、霞の相性もいい。
七四.源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)
憂かりける 人を初瀬の 山おろし
はげしかれとは 祈らぬものを
(うかりける ひとをはつせの やまおろし
はげしかれとは いのらぬものを)
現代語訳
冷たいな 初瀬に祈って 山嵐
ひどくなれとは 頼んでないよ
英訳
I pleaded with the Goddess of Mercy
for help with she who was cold to me,
but, like the wild winds of Hatsuse,
she became fiercer still.
It is not what I prayed for.
plead /plíːd(米国英語), pli:d(英国英語)/ pled(米国表記)、pleaded(英国表記)、(…を)弁論する、弁護する、弁解する、言い訳に言う
mer・cy / mˈɚːsi(米国英語), mˈəːsi(英国英語)/ 慈悲、情け、容赦、(不運の中の)幸運(なこと)、恵み、おや、まあ
fiercer /ˈfɪrsɝ(米国英語), ˈfɪrsɜ:(英国英語)/fierceの比較級。獰猛(どうもう)な、 凶暴な
still /stíl(米国英語)/ 静かな、しんとした、音のしない、黙った、静止した、じっとした、流れのない、風のない、ないだ、低い
解釈
これは「祈れども逢わぬ恋」という複雑な題をこなした歌。三句を「山おろしよ」としたものも多いが、この字余りはくせのある好みといえよう。
~
初瀬観音に祈ったあとかえっていっそう、つれなさが身にしみてきたのである。下句の一気呵成の声調も山おろしと照応しておもしろい歌になっている。
大江匡房とこの源俊頼の歌は、「山にあるもの」のペアでしょう。あちらは「外山の霞」で、こちらは「初瀬の山おろし」です。
感想
期待とそれを裏切られる想像とのジレンマがある。葛藤を詠むというのもあるなぁ。神仏と自然と対比される人もいいかもしれない。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。