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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(三九、四〇)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

三九.参議等(さんぎひとし)

浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき

(あさじうの おののしのはら しのぶれど
 あまりてなどか ひとのこいしき)

現代語訳

浅茅生の 小野の篠原 忍んでも
おさえきれない あなたが恋しい

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I try to conceal my feelings,
but they are too much to bear --
like reeds hidden in the low bamboo
of this desolate plain.
Why do I love you so?

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

con・ceal / kənsíːl(米国英語), kʌˈnsi:l(英国英語)/隠す、隠れる、秘密にする、(…に)秘密にする
reedの複数形。/ridz(米国英語), ri:dz(英国英語)/アシ、 ヨシ
des・o・late/désələt(米国英語), ˈdesʌlʌt(英国英語)/荒れ果てた、住む人もない、寂しい、顧みられない、見る影もない、みじめな、(友も希望もなく)孤独な、わびしい
plain/pléɪn/しばしば複数形で] 平原,平地,平野
Why do I love you so?  / なぜこんなに愛しているのだろう?

解釈

 浅茅生は丈低いちがや、小野は京都・志賀・三重に歌枕があるが、ここではそう考えなくても風渡る野のさびしさが感じられれば充分であろう。『古今集』よみ人しらずの歌に「浅茅生の小野の篠原しのぶとも人知るらめや言ふ人なしに」があり、参議等の歌は上句をほとんどそのままに使用している。本歌は下句に古風な万葉ぶりのものいいが残っており、素朴な味わいがあるが、そこを改修して屈折の深い「忍恋」の世界を作り上げたものだ。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 恋する女は大胆ですが、恋する男は純情です。そんな「純情なペア」が続きます。
(略)
 男は我慢をしている。でも、どこかで篠や茅が風にざわざわ騒ぐような気がして、我慢しきれない。それが「あまりて」です。「我慢しきれない。どうしてだろう。人(あなた)が恋しいよォ」です。純情ですね。平安時代の男の恋歌は、マゾっぽいくらいに、自分をいじめて抑えるんです。それが作法で礼儀みたいなもので、ほんとはどうかわかりません。だから、女のほうは激しくなるんでしょう。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

 本歌取りをしたことはないかもしれない。やっぱり自分の言葉をくっつけると釣り合わない感じがするのかも。歌との距離を縮めるためにも、本歌取りできるくらいに、これまでの短歌に触れていきたい所存。

四〇.平兼盛(たいらのかねもり)

しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
ものや思ふと 人の問ふまで

(しのぶれど いろにいでにけり わがこいは
 ものやおもうと ひとのとうまで)

現代語訳

隠しても 顔に出ちゃった 僕の恋
「なにかあるの?」と 人が聞くもの

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Though I try to keep it secret,
my deep love shows
in the blush on my face.
Others keep asking me,
Who are you thinking of?

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

blush/blˈʌʃ(米国英語)/(…で)顔を赤らめる、(…で)赤くなる、(…に)恥じる、恥ずかしい、恥ずかしくて(…に)なる、赤らむ、ばら色になる

解釈

 村上天皇の天徳四年に催された内裏歌合の盛儀は和歌史にも残るものであった。二十番四十首、その最後の題が「忍恋」である。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

「色」は「様子」ですね。我慢して隠していたのに、どうも様子でばれてしまった。「ものや思ふーーなんか考えてんの?」と人が聞いてくる。
 (略)
「ばれて困ってます。なんとかしてください」と、女性にすがってるんじゃありません。「こんな経験、誰でもあるだろう」と思って作られたんです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

あまり、題詠があるものを詠んだことはなかったが、題詠に合わせて詠むことで、自分の中にないこと、ちょっと想像できることに手を伸ばせるかもしれない。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。