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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(四一、四二)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
四一.壬生忠見(みぶのただみ)
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこと 思ひそめしか
(こいすちょう わがなはまだき たちにけり
ひとしれずこそ おもいそめしか)
現代語訳
あの人が 好きだとみんなに ばれちゃった
誰にも内緒で 恋していたのに
英訳
I had hoped to keep secret
feelings that had begun to stir
within my heart,
but already rumors are rife
that I am in love with you.
stir / stˈɚː(米国英語), stˈəː(英国英語)/(…で)かき回す、かき混ぜる、(…を)(…に)入れてかき回す、(…を)奮起させる、扇動する、(…を)扇動して(…を)させる、(…を)奮起させてさせる、起こさせる、(…を)動かす、体を動かす
rife / rάɪf(米国英語), ɹaɪf(英国英語)/流行して、広まって、いっぱいで、充満して、おびただしくて
解釈
壬生忠見は、「有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし」の作者、壬生忠岑の息子です。そしてこの歌は、「しのぶれど色に出でにけり」の平兼盛の歌と、歌合わせで勝負した作品です。
当時の男達は、みんな純情だったのかもしれません。平兼盛の和歌とこの和歌と、どっちが優秀かは、なかなか決まらなかったそうですが、結局は平兼盛に負けました。兼盛の和歌がいきなり「忍ぶれど」とくるのに、どうやらグッときたらしいです。
壬生忠見の歌は、「恋すてふ」(発音は、”恋すちょう”)です。「恋してるらしいと、私の名前は人に囁かれるようになってしまった」というところが、少し回りくどかったのかもしれません。でも、この歌は、平兼盛の歌より、控え目です。兼盛の歌だと、「どうかしたの?」と人がやって来て言いますが、壬生忠見は、人がこそこそ噂しているのを、黙って我慢して聞いているだけです。独りで頬をぽっと染める純情です。
感想
恋すてふの響きがいい。なぜ、人知れず思っていたのか、身分違いなのか、そういう控え目な人だったからか、想像をさせる歌でいい。三十一音しかないので、やっぱり広がりがある歌に、良さを感じる。
四二.清原元輔(きよはらのもとすけ)
契りきな かたみに袖を しぼりつつ
末の松山 なみ越さじとは
(ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ
すえのまつやま なみこさじとは)
現代語訳
誓ったね お互い袖を 濡らしてさ
末の松山 沈ませないって
英訳
Wringing tears from our sleeves,
did we not pledge never to part,
not even if the waves engulfed
the Mount of Forever-Green Pines---
what caused such a change of heart?
wríng・ing / ˈrɪŋɪŋ(米国英語)/絞れるほどぬれた
sleeves / slivz(米国英語), sli:vz(英国英語)/sleeveの複数形。(衣服の)そで、 たもと
pledge / plédʒ(米国英語), pledʒ(英国英語)/固い約束、誓約、(政党などの)公約、禁酒の誓い、質入れ、抵当、質物、質ぐさ、抵当物、保証
engulfed /ɪˈngʌlft(米国英語)/engulfの過去形、または過去分詞。(…を)吸い込む、 飲み込む
解釈
一首は巧緻な技法をもって、本歌「君をおきてあだし心をわがもたば末の松山浪もこえなむ」を面影に感じさせながら、結句に置くべき「契りきな」を倒置して初句に据え、整った中にも切迫感を出している。末の松山は宮城県の歌枕、低い海辺の丘陵に打ち寄せる高波が松のきりぎしを濡らしていたのであろう。
清原元輔は清原深養父の孫で、清少納言のお父さんです。和歌の名手として有名だったので、他人の代作も頼まれていました。この歌は、女に振られた男に頼まれて作った、「恨みの歌」です。自分のことではなく他人のことで、女に贈る歌を人に頼むような男のための歌ですから、「そういう和歌ならこうお作りなさい」というような、技巧的な作品です。東北に「末の松山」という場所があって、そこは海岸近くなのに、高波が来ても濡れないようなところです。だから和歌では、「末の松山=波が来ない=心変わりしない」という風に使います。「そういう約束をしたのにさ」と我慢をしていますが、うそくさいです。
感想
本歌のほうも知らないし、本歌がなければ、成立しにくい… と感じる。英訳のほうも、なじみのない単語が多いせいで入ってこない。技巧的と言われても、なかなか入ってこない。もっと歌に親しめば、入ってくるのかな。「契りきな~しぼりつつ」という音はいい。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。