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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(七五、七六)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
七五.藤原基俊(ふじわらのもととし)
契りおきし させもが露を いのちにて
あはれことしの 秋も往ぬめり
(ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて
あわれことしの あきもいぬめり)
現代語訳
約束の 「させも」の言葉を 頼っても
あーあ今年の 秋も終わりだ
英訳
I believed what you told me,
but again this autumn passed
filled with sadness; your promises--
were they but vanishing dewdrops
of the mugwort blessing?
mugwort / よもぎ
解釈
基俊の子 光覚は興福寺の僧であったが、その維摩会(ゆいまえ)の、晴の講師を太政大臣忠通に申請して度々に洩れ、「今年こそは頼まれてあげましょう」と約束した年も選ばれなかった。一首はその時の訴えで、「させも草」は観音の詠歌といわれる「ただ頼め しめじが原のさしも草 われ世の中にあらむ限りは」を踏まえたことば。
感想
現代語じゃないので、どういう印象の歌なのかわからないけれど、恨み言も、誰かの歌を引いてくれば、じとっと湿っぽさが薄らぐのか。本歌取りは、いい歌の形、いい言葉の並びを残すくらいにしか考えてなかったけれど、他人の歌を利用することで、悪感情のとげとげしさを失くす、という方法があるかもしれない。
七六.法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)
わたの原 こぎ出でてみれば ひさかたの
雲ゐにまがふ 沖つ白波
(わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの
くもいにまがう おきつしらなみ)
現代語訳
海原に 漕ぎ出して見れば 大空の
雲とひとつだ 沖の白波
英訳
Rowing out on the vast ocean,
when I look all around
I cannot tell apart
white billows in the offing
from the far-off clouds.
row out / 漕ぎ出す、こぎ出す
vast / vˈæst(米国英語), vάːst(英国英語)/広大な、広漠とした、莫大な、巨額の、非常な、多大の
téll…apárt 〈二者を〉区別する
billows / ˈbɪloz(米国英語), ˈbɪləʊz(英国英語) / 波濤
off・ing / ˈɔːfɪŋ(米国英語), ˈɔ:fɪŋ(英国英語) / 沖、沖合
解釈
作者は鳥羽・崇徳・近衛・後白河四代にわたって政治的手腕を振った政治家の藤原忠通で、この歌は崇徳天皇の時「海上遠望」の題で詠んだもの。気宇の大きさ、晴れやかに息太い律の美しさが、白雲にまがう沖の白波という観念の美景を肯定させる歌である。
感想
英語のほうが情景がよくわかる。水平線の海と空との境がわからない感じ。百人一首のあとに、万葉集のnote(マガジン)を作ろうと思っているけれど、英語訳は必須だなぁ。「沖 "つ" 」は、歌の詠まれた頃より、さらに古い言い方の格助詞で「沖 "の" 」の意味。現代の短歌でも古い言葉を入れたくなることがある。ただ、短歌を投稿する時、現代仮名遣いか、旧い仮名遣いかを、しっかり確認されるので、ちょっと混ぜた歌は投稿しにくいし、伝わりにくい。個人の楽しみ用で。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。