見出し画像

百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(三七、三八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

三七.文屋朝康(ふんやのあさやす)

白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

(しらつゆに かぜのふきしく あきののは
 つらぬきとめぬ たまぞちりける)

現代語訳

白露に 風が吹いてる 秋の野は
パッと飛び散る 首飾りだよ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

When the wind gusts
over autumn fields
white dewdrops
lie strewn about
like scattered pearls.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

gust / gˈʌst(米国英語)/突風、一陣の風、にわか雨、どっと噴出する煙、どっと燃え上がる火炎、噴出、ほとばしり、激発
dewdrop / déw・dròp/露のしずく、露滴
strewn /ˈstrʊən(米国英語), stru:n(英国英語)/ strew の過去分詞〈砂・花などを〉〔…に〕まき散らす,ばらまく 〔on,over〕; 〈…に〉〔砂・花などを〕まき散らす,ばらまく 〔with〕.
lie strewn / ふりしく 降り積もる 散らかる
scát・tered /ˈskætɝd(米国英語), ˈskætɜ:d(英国英語)/散り散りになった、散在する、まばらな、散発的な
pearls / pɝlz(米国英語), pɜ:lz(英国英語)/pearlの三人称単数現在。pearlの複数形。真珠、真珠の首飾り、真珠層、真珠に似たもの、(真珠のように)貴重なもの、逸品、真珠色

解釈

 草の露を玉にたとえるのは比喩としては常凡だが、一首ではむしろ、そのこぼれさまを「つらぬきとめぬ玉」と表現したところが新鮮。はらはらと弾力をもってこぼれ散る露の表情が、秋の朝の野のしみわたるさびしさを美しく感じさせる。作者は文屋康秀の子。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 朝露が風に飛び散ります。それを文屋朝康は、「糸でつなぎ留めていない玉がパッと飛び散っているようだ」と言っているのです。ふつう、この飛び散った玉は「真珠」ということになっていますが、私なんかは「小さな水晶の玉のほうがもっとらしくないか?」とも思います。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

なるほど、「つらぬきとめぬ玉ぞ散りける」ってそういう意味だったのね。古語だと、短くしたって感覚じゃないのかもしれないけど、ただの省略でもなく、意味の通じる別の言葉に、パッとまとめる効果ある短縮はうまいな、と思う。

三八.右近(うこん)

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
人の命の 惜しくもあるかな

(わすらるる みをばおもわず ちかいてし
 ひとのいのちの おしくもあるかな)

現代語訳

忘られることも思わず 誓ったわ
あなたが無事で いるといいわね

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Though you have forgotten me,
I do not worry about myself,
but how I fear for you,
as you swore before the gods
of your undying love.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

swore /swˈɔɚ(米国英語), swˈɔː(英国英語)/ swear の過去形 誓う、宣誓する、(…と)誓って言う、断言する、罰(ばち)当たりなことを言う、ののしる、悪態をつく
un・dy・ing /`ʌndάɪɪŋ(米国英語)/不死の、不滅の、不朽の、永遠の

解釈

 右近という女房は、醍醐天皇の皇后、穏子に仕えた女房である。「逢見ての後のこころにくらぶれば」という後出の恋歌をよんだ中納言敦忠と契を結んだが、添いとげられなかった。この歌は女に熱中している時の男が、さまざまの誓いを立てながら口説いたのに、熱がさめて女を離れていった時に贈った歌である。離れていった男の軽薄さに対する揶揄的挑発と考えてもおもしろい歌だが、上半句の激情に対応する下句はていねいに心のゆきわたったおさめ方で、いかにも女らしい発想とともに魅力的である。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

彼女は、恋人に飽きられちゃったんですね。そんなことになるとも思わず、以前には「二人の仲が永遠でありますように」なんてことを、神様に願ったんですね。彼女一人で祈ったのか、それとも二人一緒に願をかけたのかどうかは知りません。でも、彼女がそんなことを神様に頼んだのを、男は知っているはずなんです。だから彼女は言うんです――「人の(あなたの)命は惜しいわね」と。「神さまに祈ったことをあなたは破ったんだから、きっと死んじゃうわよ」と、彼女は言ってるんです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

こわいなぁ。でも、後半は、激した感情をおさえた言い方になっている。気分は、高じさせつつ、表現は抑えめにすると、こわくなるのかしら。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。