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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(一七、一八)
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に入ってきたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌時のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
noteで書くことに困った時にまとめる予定だったが、最近は週一回、必ずまとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首、取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら、意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて見る作業は、短歌の連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
一七.在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに 水くくるとは
(ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ
からくれないに みずくくるとは)
現代語訳
ミラクルな 神代にもない 竜田川
こんな真っ赤に 水を染めるか!
英訳
Such beauty unheard of
even in the age of the raging gods--
the Tatsuta River
tie dyeing its waters
in autumnal colors.
un・heard/`ʌnhˈɚːd(米国英語), ʌˈnhɜ:d(英国英語)/聞こえない、聞いてもらえない、(特に法廷で)弁明を許されない(で)
rag・ing/réɪdʒɪŋ(米国英語), ˈreɪdʒɪŋ(英国英語)/激怒した、荒れ狂う、猛烈な、猛威をふるう、ひどい、激しく痛む
dýe・ing/ˈdaɪɪŋ(米国英語)/染色(法)、染め物業
au・tum・nal/ɔːtˈʌmnl(米国英語), ɔ:ˈtʌmnʌl(英国英語)/秋の(ような)、秋らしい、初老期の、中年の、秋咲きの、秋に実る
解釈
川に散り浮く紅葉のおびただしさを、からくれないの絞り染めに見立てたところがおもしろさになっている。
(略)
その上これは東宮妃高子の室を飾る屏風の絵に添えられた歌である。業平の思いとしては、ひとたびは身を賭けて盗み出したほどの恋人であった高子の目に、この明るい紅葉の景とともに回想してほしい燃えるような情念のほてりが、そっと秘められていたかもしれない。
感想
カラフルな歌。個人的には、花札の紅葉の絵柄を思い出す。神の時代にも聞いたこともない、唐、くれないという強調と色どりで、すごく鮮やかにさせる。馬場あき子先生の燃えるような情念を込めたのかも、と想像すると、かなりやばい。ドキドキする。そんなん贈っちゃダメだろ。
一八.藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)
住の江の 岸による波 よるさへや
夢のかよひ路 人目よくらむ
(すみのえの きしのよるなみ よるさえや
ゆめのかよいじ ひとめよくらん)
現代語訳
住の江の 岸に寄る波 夜の中
夢の中でも 僕を避けるの?
英訳
Unlike the waves that approach
the shores of Sumiyoshi Bay,
why do you avoid the eyes of others,
refusing to approach me--
even on the path of dreams?
un・like/`ʌnlάɪk(米国英語)/同じでない、違った、似てない
ap・proach/əpróʊtʃ(米国英語), əprˈəʊtʃ(英国英語)/(場所的・時間的に)(…に)近づく、近寄る、接近する、(性質の状態・数量などで)(…に)近づく、近い、(…に)似てくる、話を持ちかける、交渉を始める、取りかかる
shores /ʃɔrz(米国英語), ʃɔ:rz(英国英語)/ shoreの三人称単数現在。shoreの複数形。(海・湖・川の)岸、 海岸
解釈
恋が霊妙な力をもつ魂の通路だった時代の恋の歌には、夢の力にたよった恋が多くうたわれている。この歌は歌合(うたあわせ)という晴(はれ)の場の題詠だが、一首の中では「住の江」という歌枕の地名がじつにやさしく作用している。和歌・芸能の神である住吉に詣でる旅は、王朝人にとってはこの上ない遊山であった。江口・神崎という遊里も近く、艶におもしろく、風流な印象のある所であったからだ。
「住の江」は、昔は海だった大阪の、住吉の岸辺です。そこにひたひたと波が寄せて来て、その内に、「寄る波」は「夜の波」に変わって、いつの間にか「夢の中」です。好きな人の夢を見たいと思う。でも、なかなかその夢を見ることが出来ない。夢の中に会うための道は開かれているはずなのに、好きな人は、人目を避けて、夢の中でもやって来てくれない。「僕はそんなに嫌われてるんだろうか?」という和歌です。「恨みの歌」ですが、とてもオシャレな恨み方です。
感想
人目を避ける歌と認識して読むと、なるほど。英訳のほうが、人目を避けた行が一行真ん中に存在感を示していて、余計に恨みを感じる。夢ってその人固有の体験のようでいて、人が持つ共通イメージも出てくるので、意外と詠むと共感されるものもあるかもしれない。いや、この時代ほど、固定した意味を持ってないかもしれないので、難しいかもしれない。どうだろう。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。