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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(七七、七八)
七十八首目には、源氏物語の中に本のある源兼昌の歌。
普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。
教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。
だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。
七七.崇徳院(すとくいん)
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に あはむとぞ思ふ
(せをはやみ いわにせかるる たきがわの
われてもすえに あわむとぞおもう)
現代語訳
流れ落ち 岩に砕ける 滝川さ
別れはしても 最後はまた会う
英訳
Like water rushing down
whe river rapids,
we may be parted
by a rock, but in the end
we will be one again.
rushing /ˈrʌʃɪŋ(米国英語)/ rushの現在分詞。急ぐ、 急行する、 急いで行動する
rapids /ˈræpɪdz(米国英語)/ rapidの複数形。速い、 急な、 迅速な
解釈
歌に心を寄せていた崇徳院は、本意なく保元の乱にまきこまれ、失意と憤怒とを内攻しつつ讃岐に流され、激しい怨恨を世に残したまま松山になくなった。この歌は久安年間に催された「久安百首」に自ら参加した歌の中のもの。早瀬をなして流れ下る滝川のような強いひびきの伝わる歌で、激情は結句において一途な意思の存在をみせている。ふとその悲運の生涯に思いの及ぶ歌である。
感想
人生の途上に詠んだ歌がその人を表しているということはよくある。残された歌、残った歌だけ見ると、暗い歌は、その人の人生も暗くするかもしれないと思うけれども、やっぱり詠みたい気持ち、表現したい気持ちがあれば、どんなに暗くとも、それを詠みたい。きっと、激情を詠んだ歌がたくさんあったから、その中で目を惹く歌がそこにあっただけだろう。楽しい歌をたくさん詠む人生にしたい、けれども、いい歌を残せるなら、そればかりじゃなくてもいい。
七八.源兼昌(みなもとのかねまさ)
淡路島 かよふ千鳥の なく声に
いく夜ねざめぬ 須磨の関守
(あわじしま かようちどりの なくこえに
いくよねざめぬ すまのせきもり)
現代語訳
淡路島 行き交う千鳥の 鳴き声で
いく晩目覚めた 須磨の関守
英訳
Barrier guard of Suma,
How many nights
have you been wakened
by the lamenting plovers
returning from Awaji?
lamenting /lʌˈmɛntɪŋ(米国英語), lʌˈmentɪŋ(英国英語)/ lamentの現在分詞。(…を)嘆き悲しむ、 哀悼する
plovers /ˈplʌvɝz(米国英語), ˈplʌvɜ:z(英国英語)/ ploverの複数形。チドリ
解釈
この歌には「本歌」があります。『源氏物語』で、須磨に流された光源氏が、「友千鳥(ともちどり)諸声(もろごえ)になく暁は ひとり寝覚めの床(とこ)もたのもし」です。光源氏は寂しいのですが、それでも群れ飛ぶ千鳥が声を合わせて鳴いているのを聞くとふっと目が覚めて、「寂しくはないな」と思うのです。そういう歌をベースにしてこの歌は作られているのですが、しかし、それが崇徳院の歌とペアになるとどうでしょう? 須磨の対岸は淡路島 ―― でもその向こうには、崇徳院の流された四国の讃岐があるのです。
この「須磨の関守(関所の番人)」は、なんでそんなにも眠りが浅くて、千鳥の声のなにが気になるのでしょう? 歌の内容を超えて、まるで讃岐に流された崇徳院のことを気づかっているように思えてしまうのは、和歌の配置のせいですね。
感想
歴史を踏まえると、事件が厚みを増すように、本歌取りするなら、その歌の背景ごと持ってこれるといいんだろうなぁ。ただ、いいと思っただけでなく、背景や詞書を含めて、いいな、と思ったものは、ストックしておきたい。
※引用図書の紹介
『百人一首がよくわかる』
国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。
『英語で読む百人一首』
百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。
『百人一首 (平凡社カラー新書)』
馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。