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百人一首復習ノート・おかわり(一七、一八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。そうはいっても、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することは、短歌に向き合うためには必要なことかもしれない。

教養としてではなく、あくまで自分の作歌のタネとして、作歌のテクニックという実利を期待して、「百人一首復習ノート」として、百人一首の歌の意味と解釈に触れた。

二周目は、和歌の後ろに広がる世界、短歌の持つイメージ、詩作の楽しみに触れてみようかと思っている。

一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首がペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形で触れるようにしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

百人一首復習ノート(一七、一八)

一七.在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)

ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに 水くくるとは

(ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ
 からくれないに みずくくるとは)

現代語詠み直し

神々の時代も聞かない竜田川こんなに赤く赤く染まって

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

大昔、私でもあなたでもあの人でもなく、
神の指先が世界のすべてをかき乱したころ、
星は落ちてきたかもしれない、桜で空が埋まったかもしれない、
燃えながら降る雪もあったのかもしれないけれど、
川の流れが、水を、紅葉でくくり染めしていくなんて、
そのころにもきっとなかったはずですよ。
染まれ染まれと流れていますね、唐紅の龍田川。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・平安時代を代表するプレイボーイ「伊勢物語」のモデル
・紀貫之表「その心あまりてことばたらず。しぼめる花の色なくてにほひ残れるがごとし」(ひどい!)
・二条后清和帝皇后・高子 屏風(竜田川の紅葉が流れている)をテーマにして歌を詠んでと依頼。
・「もみぢ葉の流れてとまる湊にはくれなゐ深き波や立つらむ」素性法師
 と対になる歌
・「水くぐる(潜る)」?「水くくる」?江戸時代中期頃に初めて呈された絞り染め案

(日本女子大 森田直美先生の論文より)
・平安時代の人に絞り染めを身近で優美なものととらえる感覚がなかった
→二条后の屏風絵という晴れの場で「水くくる」と詠むことはないと思われる
・「水くぐる」ならば「紅葉の下を水が潜りぬける」 or 「紅葉が流れる竜田河を紅の水」に見なした
・「くぐる」は「潜る」ではなく「流れる」
・「唐紅に」の「に」・・・動作や状態が生じるのではなくその状態のありようを表す格助詞

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

「神の時代から」「川に広がる紅葉の赤」がある歌。タヒさんは、さらに、川の言外にも「水」の印象を強めている。

一八.藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)

住の江の 岸による波 よるさへや
夢のかよひ路 人目よくらむ

(すみのえの きしのよるなみ よるさえや
 ゆめのかよいじ ひとめよくらん)

現代語詠み直し

住の江の岸に寄る波夜の夢なぜこの道を来てくれないの?

『現代短歌版百人一首 花々は色あせるのね』©2023 東直子/春陽堂書店

現代語訳(新作詩)

住之江の海岸に、波が打ち寄せる、打ち寄せる、
つづいていく、音、音、
夜さえもあなたは、夢の中さえも、
どうして、あなたは、人目を避けて、
私のところに来てくれないのか。

夢で、逢うための道、
歩んでいく、歩んでいく、
どこまでもあなたの影はない、
夜さえも、夢さえも。波の音、音、音。

『千年後の百人一首』©2017 清川あさみ・最果タヒ/リトル・モア

ちはやふる百人一首勉強ノート

・書道家として評価が高い。村上天皇が小野道風に古今の最高の妙筆は誰か? と問うた時 東風は「空海と敏行」と答えたそう
・宇多天皇の后の歌会で詠んだ歌
・小野小町の「うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 人目をよくと見るがわびしき」の本歌取りをした歌(本歌取りの文化のはじまり)
・よる波(寄る/夜)
・この時代……夢にだれかが現れるのは「その相手も自分を深く思ってくれているから」と考えられていた
→想い合っているなら夢で会えてもいいはずなのに……(なじってる)
・「夢の通ひ路」という言葉の発見(定家はずいぶん気に入ったらしい)

『ちはやふる百人一首勉強ノート』©2022 末次由紀/講談社

感想

「(寝ている時に見る)夢」、恋愛の引け目のような感情がある歌。和歌・芸能の神がいる昔からの遊山のイメージが、東直子さん、タヒさんには伴ってない。が、、、取り入れるのは難しいか。必要はないかもしれない。

※引用図書の紹介

歌人・東直子さんが、現代の短歌として、百人一首を詠み直したもの。

次は、詩人・最果タヒさんが、百人一首を詩として作り直したもの。

競技かるたのマンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀さんが、マンガを描くにあたり、取材したメモを再構成したもの。東直子さん、最果タヒさんが詩情を感じたところが、どういった背景や人物像に立脚したものかを確認するために使おうと思う。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。