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【エッセイ】ゆっくり介護(14)

ゆっくり介護(14)<心を乗せた宅配便>
『介護は親が命懸けでしてくれる最後の子育て』
*この言葉は「ぼけますからよろしくお願いします」(著:信友直子)より引用

「ピンポン」
誰かが来たようだ。
母が玄関に出た。

「宅配便です」

大きなダンボールの荷物が届けられた。
誰宛に届けられた荷物だろうか。
母がその大きな箱を受け取り、宛名を見て、そのままその箱を持って応接間へ行ってしまった。
きっと母宛の荷物なのだろう。

「バリバリ」と箱を開けている音が応接間からしてきた。
その後、まったく音がしなくなった。応接間に誰もいないのではと思うほど、シーンとしたままだった。

耳をそばだてた。応接間から母の息が聞こえるようだったが、それが母の息であるかどうかは分からなかった。

気になって応接間に行こうとした時、母のすすり泣く声がしてきた。
「ドキッ」とした。応接間に入ってはいけないように感じた。

それから何分かが過ぎたとき、母が一人でいる応接間から母の話す声がした。

「おばあちゃん、嬉しくて泣いちゃったよ。ありがとう、ありがとうね」

耳が遠い母は大きな声で話をしていた。
あまりにも大きな声で会話の内容が聞こえてくる。
孫と電話をしていることも分かった。

少し間を置き、応接間に行ってみると、そこには鉢植えの花が置かれていた。
宅配便は孫からの花のプレゼントだった。
テーブルの上には、孫からのメッセージカードが開いたまま置かれていた。
メッセージカードには孫の文字で

『おばあちゃん、いつまでも長生きしてね』

とだけ書かれてあった。

敬老の日のプレゼントに、遠方に住んでいる孫がメッセージカードを添えて花を送ってきたのだ。母の顔を見ると、まだ目を真っ赤にしていた。

夕飯の母の話題は、孫からの花のプレゼントの話。
いつもと同じように、同じ話を何度も繰り返して話す母。いつもなら、同じ話を繰り返ししていると思っていたが、この日の母は同じ話をしても、その口調はどんどん嬉しさが増していく感じだった。

今朝も、母は応接間に置かれた花に水をやり、嬉しそうにその花を眺めている。

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