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59.オカン同級生との別れ

オカンの枕元に、ニワトリを描いた下絵があったので、
何か作ろうとしているなとは思っていた。

夕飯の後オカンが、「フェルトを売っているとこ
知らんか?」と聞いてきた。
「フェルトなら売るほど持っているで」と私。
ここ数日、警察に保護されながら、必死でオカンが探して
いたのは、なんとフェルトだったらしい。
家にいっぱいあるのに。
「何作るん?」と聞いたら、オカンは、「ニワトリを作る」
という。「友達が病気やから、プレゼントあげようと思うねん。
わたしら酉年やから、ニワトリがええなあと思うてな、
ニワトリのマスコット作ってあげよう思てるねん」。
なるほど、それで、ニワトリの下絵があったんか。
オカンに、フェルトを渡したら、一日没頭して、作っていた。
元々、オカンは手芸が大好きで、子供の頃、
よくフェルトのマスコットを作ってくれたものだ。
今朝、オカンに、ニワトリできた?と聞くと、「綿がいるねん」。
見せてもらうと、ほぼ出来上がっていて、後は綿を入れるだけ
になっていた。綿をオカンに渡すと、オカンはまた
「友達が病気でな。酉年やからニワトリあげよう思うねん」
と同じことを言った。

午後になって、オカンの同級生から電話が入った。
オカンの友達が今朝、亡くなったという知らせだった。
オカンは、「ニワトリ間に合わんかったなあ」とぼそりつぶやいた。
ちょうどオカンと、出来上がったニワトリを見ながら、
病気の友達のことを話していたあの時間、
その友達は息を引き取ったのだ。
学生時代からの友達が亡くなるって、どんな気持ちなんだろう?
自分の親友が亡くなるところを想像してみた。
キュンとせつない気持ちになった。

もしかしたら、私の方が先に逝って、友達をキュンという気持ちに
させるかもしれないが。いつかは来るのだろう、そんな時が。
毎日会っているわけではない。
年に数回会うだけだから、毎日の生活に変化があるわけではない。
ただ、その友達にもう二度と会えないのだということを知るだけ
なのだが、なんとせつないことだろうか。
今日はオカンにやさしくなれた。

オカンは、意外にしっかり友の死を受け止めている。
「危ないってわかっていたからね」
オカンがつぶやく。
長く生きると、たくさんの死に直面しないとならない。
死を受け止められるだけの強さをもたないとな。

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