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20.図書館へ行く!

20代のはじめ、横浜の野毛山に住んでいた。
東京に転勤が決まって、CAをしていた姉の部屋に転がり込んだ。
はじめて親元を離れての生活。
慣れない土地での暮しの中で、私の心を癒してくれたのが図書館だった。
マンションから徒歩で3分。
野毛山動物園へと続く樹齢何十年もの街路樹が続く坂の途中にあった。
蔦がからまる石造りの古い洋館。
木漏れ日が降り注ぐ庭を通り建物の中に入ると、静寂につつまれた
まるで異次元の世界に飛び込んだような不思議な空間だった。
特にお気に入りは地下にある児童書の部屋。
らせんになった大理石の階段を降りていくと、
天井の低い小さな部屋がある。
棚には児童書が天井までぎっしり並べられ、奥へ進むと、
隠し部屋のようなさらに小さな部屋があった。
ここで、子供用の小さな椅子に座り、ファンタジーの世界にひきこもる。
その時間が大好きだった。
数年経って、古い図書館が閉鎖され、そばに新しい図書館ができたけれど、
無機質な建物で、そこには魔法のかかった空間は存在せず、寂しい思いをした。

あれから30年近く経った。
仕事で忙しく、図書館で過ごした夢のような時間のことなど
すっかり忘れていた。

認知症のオカンのそばから離れたくて、ネットで家の近くの図書館を探す。
自転車で20分のところに大きな図書館があることがわかって、行ってみた。
田んぼのあぜ道を抜けると、突如現れた大きな図書館は、
構想から10年かけて建てられたという「奈良県立情報図書館」。
現代建築の美しい構造だ。
絵本のコーナーは残念ながらなかったが、
図書館の不思議な魔法を持つ空間がそこにあった。
やった!
窓辺に向けて置かれた椅子は、隣との間隔がゆったりと開いていて、
ひとりの時間を楽しめるよう工夫されていた。
平日だというのに座る席がないくらい、たくさんの人が、
それぞれの思いで本をよみふけっている。

やっぱり図書館って魔法の場所。
昔、好きだった本を手に取って、ぱらりとめくる。
15歳の少女の自分がぴょこりと顔を出す。
ああ、本っていいなあ。
家の近くに逃場を見つけたのがうれしくて、うれしくて
しばらく通ってしまいそうだ。


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