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56.オトン噴火する

オトンがおかしなった!
オトンは、レビー小体認知症。
この病気は、オカンのアルツハイマー型とは違って、
幻覚がみえるらしい。
ずっと薬が効いていたので、私が介護してから
一度も幻覚をみている様子はなかったのだが……。

昨日、オトンは、急にわがままになった。
食べたいものリストを書くから、紙を寄越せという。
紙を渡すと、がさごそがさごそ。
しばらくして、読めと。
しかし、紙は真っ白。何も書かれていない。
オトンは、全盲だから、書けたかどうか自分で確認できない。
私とオカンが、「何も書かれてないで」というと、
「そんなはずはない」という。
じゃあ、「読んでみ」というと、
オトンは、「パナトラン会社の決算は~」と読み上げ始めた。
ナンノコッチャ?
オカンが、「食べたいもの言ってみ。私が書いてあげるから」
というと、オトンは、「イカ、サツマイモ、大根、チーズ、
カマボコ、カニカマ、チーカマ……」
と、安い食品をあげていく。お金かからん、爺っさまだ。
ま、食べたいなら、買ってきてあげよう。

オトンは、またしばらくすると、トイレで騒ぎ始めた。
「椅子を持って来い!」
オカンが
「便器に座ればいいねんで。うちは洋式トイレやで」
そらそうだ。
ますます、わけがわからなくなっていくオトン。

洋服に着替えさせるときも、「ベスト!」と叫ぶので、
ベストを着せた後、「これはジャケットじゃない!」と言って、
ベストを脱ぎ捨てた。「そう、それはベストやからね」

玄関の冷たい床に座りこむオトン。
しばらく傍観していると、
「おお、久しぶりやな。よく来たね。大きくなったなあ」
とオトンがつぶやく。
孫の顔を見ているのか?
あんなに大噴火して、わがまま放題に荒れていたオトンが、
静かな優しい表情に戻る。
どうやら、怒りは去ったらしい。

幻覚ってありがたいもんだなと思った。
現実生活は、全盲のオトンにとって、常に思い通りにならない。
イライラすることで充満している。
ときどき噴火して発散することも大切なんだろう。
それを、おさめる力は、自分で持っている(=幻覚)ということか。
すごいなオトン。
自分で、自分の噴火をおさめているよ。
尊敬申し上げます。


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