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55.デイサービス見学2

2軒目に行ったデイサービスは気に入ったようで、
契約を結ぶといってくれた。やれやれ。


オカンに「今日3時にデイの人が契約にくるよ」
と言って、二階で仕事をしていたら、ついつい
没頭して、気が付いたら玄関のチャイムが鳴った。
時計を見たら3時少し前!わお!
一階に降りると、入ってくるデイの人と、
ちょうど出かけようとしているオカンが鉢合わせしていた。
『どこ行くんだよ』と心の中でつっこむ私。
とりあえずギリギリセーフ!・・・と思ったら
出かける気満々のオカン、自転車置き場に突き進む。
私が自転車の鍵を抜いておいたので、出かけられず
パニックになるオカン。
私が、お客さんが来ているから家に戻ってと、焦らすと、
「ちょっと待って!一度に2つのことはできないのよ!
ひとつずつ頭を整理させて。そうでないと記憶がごっちゃに
なって動けない」とオカン。
(後で考えたら、こんな冷静な自己分析ができるオカンって
スゴイと思う。このセリフで私も落ち着くことができた)

まず、
「どこに行くの?」と聞いてみた。
「市役所に行く」とオカン。
「何しに行くの?」
「健康保険証がないから、再発行してもらいに行く」
『な~んだ。そんなことか』
「保険証は私が預かっているから大丈夫やで。なんで保険証がいるの?」
と聞くと、オカン、必死で思い出そうとするがギブアップ。
パニック状態のまま、とにかく家の中に戻す。
デイの人には応接間で待ってもらうことに。
廊下でオカンと今一度語る。

「銀行の通帳がないので、再発行してもらうんやった。
それで保険証がいるねん」とひとつずつ思い出していくオカン。
「通帳は、去年解約したでしょ。私もいっしょに行って
手続きしたやん。ここにその時のオカンのメモもあるで」
と私。オカン、自分のメモをみて、記憶がどんどんよみがえる。
「そうやった。ほんなら再発行せんでも、もうええねんな」
「そうやで」というと、やっとほっとしたようで、
パニックがおさまった。

では、次のステップへ!
「デイサービスの契約をしに来たお客さんがいま応接間にいるよ。
お母さんは病気なんだから、新しいことの記憶ができなくて、
当たり前。病気なんだから仕方ないの。でも、この病気を治す
方法がひとつだけあるよ。それは、デイサービスに行って、
いろいろな人とふれあって会話すること。家にずっといて
誰とも口をきかなかったら、病気がどんどん進行するよ」
こう言ったら、

「私もそう思う」
と、めずらしく従うオカンにほっと胸をなでおろした。
ここまでかかった時間、20分くらい?
デイの人は聞き耳を立てながら、辛抱強く応接間で待ってくれていた。

オカン、納得して、無事契約終了。
オカンの趣味の話など雑談に入る。
デイの人が、応接間に飾ってあるたくさんの抽象画を見て、
「油絵をされるんですね」
と言った。オカンは、
「へたくそですが」と謙遜。
「デイのカリキュラムに絵手紙がありますよ。お上手でしょうね」
と言う。『あ~あ、地雷踏んだな』と心の中でつぶやく私。
オカンは、かたくなに自分はへたくそだと言い放つ。
デイの人は、オカンを励まそうと、
「いえいえそんなことはないでしょう。
こんなすばらしい絵を描くのですから」と、
なぜか、こちらもかたくなに譲らない。
オカンは
「抽象画と写実はまるで違うんです。抽象画は感覚で
絵具をのせるだけで簡単なんですよ」
と必死で説明。けど、デイの人は
「いえいえ、ご謙遜を~」
とまだ言ってくる。イライラ。
オカンに印鑑を取りに行かせて、席を立たせた。
すかさず、小声でデイの人に
「すみませんが、母の意見に反論したらするだけ、
かたくなになっていくだけなので、同調してください」
と頼んだ。

新しいデイ、大丈夫かなあと一瞬不安になった。
向こうの方が専門家なのに、わかってないなあ。
期待したり、励ましたりは、逆効果なのよ。
ただただ、そうですか~と相槌をうってあげるだけで
いいのだわ。
みざる、きかざる、いわざるの精神。
こちらは、意思を持たない方がいいくらい。
ジャブが飛んで来たら、のれんに腕押しの、のれんになれば
よいのだよ。
たのむよ~。


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