記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「人間の條件」完走。

召集逃れのための鉱山労務から始まり、結局召集されて前線で戦い…
終戦、そしてシベリアへ。

合計9時間半!
長かったような、終わってみればあっという間だったような。
一部二部の鉱山のシーンが回想で流れた時は、既に懐かしいというような気がしたなぁ。

と、いうわけで第四部までの感想はこちら↓

第五部からのお話はあって無いようなもんで、敗残兵となった梶他二名があてもなくひたすら彷徨い続けます。
捕虜になるまでずーーーっと彷徨ってる。

その途中で出会う避難民の中に岸田今日子がいたり中村珠緒がいたり。別の避難民グループの中にはデコちゃん高峰秀子や笠智衆がいたりと、避難民メンバーはかなり豪華。デコちゃんのラスボスみたいな存在感は流石でした。笠智衆はいつもの笠智衆で。
若い頃の岸田今日子って艶めかしい色気がありませんか?いきなり新珠美千代の顔に見えてしまったのにはちょっと笑ってしまった。

こうして終戦後の敗残兵や避難民の姿にスポットをあてた作品って、他では見かけないような気がします。
「おまえが教え込まれた『国』はもう滅びたよ」のセリフのとおり、国としての戦争は8月15日で終わった。
だけど人々の戦争は、そこで終わりではなかったんですよね。

第五部からはシリーズ史上最高のクズと言っていいかもしれない生き残り兵・金子信雄が登場。散々クズな振る舞いをした挙句、最後は梶の逆鱗に触れ惨殺される。
「貴様は死ね!」のシンプルな台詞の破壊力の凄まじさといったら!これまでの怒りや鬱憤が爆発して針が振り切れたような、ものすごいシーンだった。
まあ金子信雄は殺されて当然なんです。想像を絶するほどボコボコにされてて、正直スカッとした。
中村珠緒と川津祐介が可哀想すぎたよ…

思えば第一部からずっと、梶の敵はいつも日本人だった。小沢栄太郎、安部徹、千秋実ら古参兵たちなどなど。
「敵」と表現していいのか迷うけど、笠智衆や高峰秀子がいた部落避難民もやはりそうだった。高峰秀子がわーっと騒ぎ立てた瞬間の絶望感といったらない。ある意味、そこで全てが終わったようなもんです。
ただ、避難民からしてみれば梶たち日本人兵が「敵」だったんですよね。この人たちさえ連れていかれれば、自分たちはとりあえず助かるのだから…そういや最初に「日本兵よりソ連兵のがマシだ」みたいなこと言ってたなぁ。

結局日本人の敵は日本人だったわけです。
味方も敵なら、自分を守れる者は自分しかいない。

金子信雄を始末した梶は収容先を脱走し、乞食と化す。
まんじゅう盗んで、かつて守ろうとした中国人たちから罵倒されて、たったひとつのまんじゅうを自分で食えばいいのに美千子に土産だとか言って、大事にポケットに入れてる。
それで美千子美千子と言いながら雪原を歩き続けて、力尽きる。

9時間半見続けてきた結果がこれです。先に待っているものは救いのない絶望だけだった。
それが戦争なんだってことなのかもしれません。

梶という人は、私からしたらほとんど幻のようなキャラクターでした。
究極のヒューマニストで理想主義。どんなに過酷な状況下であってもそれを貫こうとする。悪く言えば臨機応変さがない。それ故に過剰な反発を受けたり仲間に咎められたりもするけど、絶対に信念を曲げることだけはしない。
最初のうちは頭カチカチのインテリっぽさが鼻について共感し難く、あまり好きにはなれなかったのです。

しかし前線に放り込まれて以降、本人の反戦意志に反して戦闘能力が高かったり半端じゃないリーダーシップ能力を発揮していて、実は兵士としてかなり優秀だったりする。が、大事なことなので二度言いますが、これは本人の意思に反している。
矛盾した環境の中で精神的に追い詰められ、根本にあるヒューマニズムは揺らぐ。それでも、それだけは捨ててはならないと必死でもがく梶の姿こそが「人間の條件」だったんじゃないかなぁ。

梶のような人は、当時おそらく存在しなかったでしょう。
思えば、自分の意思はどうであれ戦争に加担することしかできなかった人々の、理想の姿だったのかもしれません。

実際に戦争に行った人でなければ書けない。作れない。想像だけでこういう話は作れないよね…
左翼映画なんてことも言われてますけど、そういう次元の話ではないように思う。

それにしても仲代達矢が素晴らしかったなぁ。
第一部と第六部では全然顔つきが違うんだもん。後で見比べるとびっくりするよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?