想定外

病院に着いてナースステーションに問い合わせたところ、家内の携帯含めた貴重品を渡すだけで面会はできないと言われました。が、状況がさっぱりわからないし納得できないので、しばらく食堂で待機しました。

食堂と言われる場所は、患者の家族が手術中に待機できるよう机と椅子がいくつかあるスペースです。
少し待ったところ、家内から看護師さんと一緒に歩くから食堂の外で待っていて、と携帯へ連絡がありました。
本来とても面会できる身体でないにもかかわらず、家内は夫が来ているなら会わせてくれと看護師にお願いしたと、後から聞きました。

ソワソワしながら待ちました。しばらくすると点滴台とともに二人の看護師に支えられながら、ゆっくりと歩いてきた家内が見えました。

会えた。
立っている。
よかった。

安堵した、というのが率直な気持ちでした。

これも後から聞いたところ、手術がもう少し遅れていたら命が危なかったと医師から言われたとのこと。
家内は手術後に目が開いた瞬間「生き還ってしまった」と思ったそうです。あの痛みの中、自分はこのままここで死ぬんだろうと。

このまま一緒にいたい気持ちでしたが、この面会は特別な扱いだったようです。家内に逢えて山を乗り越えたのを見届けたので、病院を後にしました。

しかし、ここから家内の苦闘が続きます。

ICUから個室に移されたので電話での会話が可能になりました。家内からは胸の痛み、発熱、むくみがひどい、起きているのが大変しんどいという話を受けました。何もできないもどかしさと、励ます言葉も見つからず、「心が折れそう」と言われては、何をどうすればいいかもわからない状態で言葉に詰まってしまいました。

想定外ばかり。
腹腔鏡手術が終わったら1週間くらいで退院する予定であり、早ければあと3日後に退院を迎える時点で縫合不全というアクシデントに遭いました。これが想定外のひとつ。

統計上、縫合不全は一定の確率で生じますが、発見が早ければ管を口から入れて内容物を吸い出すなど手術しない処置があります。しかし、家内の場合、いくら看護師を呼んでもほったらかしにされ、時間が経過し過ぎたために開腹手術をせざるを得ない状況でした。これが想定外のふたつ。

また、緊急手術の都合から、予定のなかったストーマを創設しなければいけない事態となりました。ストーマを創設する時は事前に適切な場所を調べてマーキングするみたいですが、急いでマーキングしたからなのか創設した場所が標準とは違うようでした。それがわかったのは、ストーマの着脱をする際に看護師がかなり手こずっており、中には困ったような発言をしたからでした。これもまた想定外。

トドメは看護師の対応。コロナ禍のため余計な業務が増えているからか、患者に寄り添う対応がほぼ皆無でした。ごく一部の看護師は寄り添っていただくこともありましたが、家内としては一刻も早く病院を出たいと何度も言い続けていました。このまま病院にいたら心がおかしくなってしまうと。

退院までの間、家内は何度も自問自答したらしいです。なぜこうなったのか?こんな辛いことに何か意味があるのか?と。
また、腹腔鏡手術が終わって順調に予定通り退院していたら、自分の軸ができずに周囲に流されるようになっていたのではないかとも考えたようです。

家内は生まれつき直感が鋭いのですが、周囲を配慮しすぎて自分の意見を押し殺す傾向がありました。そのため、この境遇に陥ったのは、自分軸を作るためではないか、と思ったそうです。

私にはとても実感できない辛い状況に耐えながら、家内はこの境遇を直視していました。

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