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2017年6月の記事一覧
ジセダイタンカ掲載 -名もなき坂ー
名もなき坂
実はねとはじまる話 晩春はゆるい下りのカーブにかかる
せせらぎを狭き個室に響かせて洟かめば時季はづれの香り
大丈夫だからと応へ帰宅せし夜にへし折るセロリ一本
いつになく敏い言葉に射ぬかれてこれはまた深さうな沼だな
たつぷりのミルクの底にほとばしる苺の汁のやうに本音は
んん、と言ふごとくに写りわが顔は疑念を抱く証明となる
駆けあがれ陰を光をひらめかせ名もな
未来2017年6月号 題「階段」ほか
題「階段」ほか
美術科の校舎に入れば踊り場に啓示のごとく薄日はさしぬ
林立せるビルにも非常階段は潜めり塔の遺伝子ならむ
うなだれて亡者の輪舞エッシャーの階段上に五十七年
アカウントひとつ増やしてなお拡ぐ段差みづから転げ落ちたり
恥づかしき記憶のあまた突き落とせど這ひ上がり来て足首つかむ
錆の浮く手摺に指を沿はせたりかの日かの時人と別れき
送られしキウイひと箱わやわや