見出し画像

ジセダイタンカ掲載 -名もなき坂ー

   

   名もなき坂 

実はねとはじまる話 晩春はゆるい下りのカーブにかかる

せせらぎを狭き個室に響かせて洟かめば時季はづれの香り

大丈夫だからと応へ帰宅せし夜にへし折るセロリ一本

いつになく敏い言葉に射ぬかれてこれはまた深さうな沼だな

たつぷりのミルクの底にほとばしる苺の汁のやうに本音は

んん、と言ふごとくに写りわが顔は疑念を抱く証明となる

駆けあがれ陰を光をひらめかせ名もなき坂にみどりは溢る

(NHK短歌2017年5月号掲載)


天野慶さんからご依頼をいただいたときには驚きました、というのは若い方が載るコーナーだと思っていたので・・・しかし私は歌歴が浅いのでさほど場違いでもないのでしょう。とはいえ、私をご存じない方のほうが圧倒的に多いはずなので、140字のミニエッセイでは自分の歳がほんのりわかるように書きました。苺にミルクと砂糖をかけ、つぶして食べたことのある世代です。

いまのところ誰も指摘していないようなので自分で言いますが、7首の頭の音をつなげると「ジセダイタンカ」になります。そのようにして無理やり絞り出したのがこの連作です。発売の季節を先取りして作るのはなかなか難しかったのですが、約2か月後に職場でほぼ同じ思いをする羽目になり、言霊の恐ろしさを知りました・・・。

「リスペクトブック」では『中澤系歌集 uta0001.txt』を紹介させていただきました。自分が短歌をはじめてわりとすぐに出会った歌集であり、故・中澤系さんの命日が発売日に近いこともありましたが、出版・再販の経緯にふれて所属結社「未来」のことを書く機会をいただけたのはよかったと思います。紙幅に限りがあり、言葉足らずな部分はご容赦いただければと思います。

天野さん、NHK出版の鈴木さんには大変お世話になりました。「陸から海へ」をどうしても入れたくてプロフィールの文字数制限を緩めていただいたり、志稲の「い」は小さい「ぃ」にしてくださいとか、面倒をおかけしました。このようなところからで恐縮ですが、改めてお礼を申し上げます。