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特殊相対性理論で私たちの未来観が大きく変わる

COBRAの2023年10月10日の記事「Situation Update 」で紹介された記事「Special Relativity Theory Expands the Futures Cone’s Conceptualisation of the Futures and The Pasts」を翻訳しました。
※翻訳がお気に召しましたら、記事下部からサポートをお願い致します。

”もうすぐさらに強力なドアが開き、宇宙から闇を除去し惑星地球を最終的に解放します。そのドアに関する情報は、こちらのヒント以外はまだ見えていません。”

元記事

Journal of Futures Studies, September 2021, 26(1): 83–90

この論文の目的は、今後の未来研究において「未来三角錐(フューチャーコーン)」の導入の是非について検討すること、特に「未来」とは現在と過去の結果なのか、どう枝分かれしていくかの相関性についてを見極めることです。

物理学では、研究者は物体の大小や運動、環境の影響の研究に重点を置きます。それら物体の動きを計算し、将来を予測します。もちろん、ハイゼンベルクやシュレーディンガーが提唱する「不確定性原理」が受け入れられるようになり、未来予想も実質不可能であるということも一般的認識です。

ハイゼンベルクの不確定性原理によると、「物体の正確な位置と速度を同時に知ることは決して不可能」であると述べられています(Wiseman, 2012)。「シュレーディンガーの猫」のパラドックスによると、箱の中の猫は、箱を開けて中身を見るまでは「死んでいる」と「生きている」が重ね合わさった状態になります。(Kramer, 2013)。

未来予想は、中長期的な未来を予知するための研究です。「アマラの法則」(Amara, 1981)で以下のように主張されているように、未来は予測不可能です。
1. 未来は未定である。
2. 未来の完全予測はできない。
3. 未来は現在の選択で分岐する。

この論文では、アルバート・アインシュタインの「特殊相対性理論」と、ミンコフスキー時空図(Dray, 2012)を繋げ、それらと近年の未来研究において注目される「未来円錐」の概念との関連性を探ってまいります。

未来円錐

未来研究家たちは長年にわたり、「可能性、確率、希望」という未来三大要素について語ってきました。1990年、チャールズ・テイラーによる独自の地政学論『戦略立案のための世界線分岐』(Taylor, 1990)で、未来円錐について初めて言及されました。続いて、Trevor Hancock、Clement Bezold、Joseph Vorosがそれを拡張していき、現代の未来学に至ります。

Vorosの未来円錐拡張版


こちらの図の主な特徴を挙げてまいります。

・潜在未来(Potential) 
「今この瞬間」以降の未来のこと。必然性や固定性はなく、全てが未知で、なんでも起こり得るという未来。

・荒唐無稽な未来(Preposterous)
普通に考えたらあり得ないと判断される未来のこと。

・可能性がある未来 (Possible)
まだ起きていないが、恐らくこういうことが起きるだろうという計算に基づく未来のこと。

・予想できる未来(Plausible)
現行世界の仕組み(物理法則、社会的プロセスなど)を考慮に入れ、予想する未来のこと。

・あり得る未来(Probable)
今起きていること、時代の潮流から顕在化していきそうなトレンドとしての未来のこと。

・希望する未来(Preferable)
起きてほしい、起きるべきと思っている未来のこと。

・予想される(Projected)
過去からのbaselineに沿って起きる凡庸な未来のこと。

・(この図には無いが)予測 Predicted
第三者による未来予測のこと。

この未来円錐はマトリョーシカ人形とも類比できます。しかし、視点を変えてみても、未来は結局予測不可であることに変わりません。

このように未来円錐は未来学の発展に役立っていますが、疑問点がいくつか生じます。

・円錐の頂点に立つ観察者は誰か?
・未来円錐は、「みんなにとっての未来」なのか、誰かの主観なのか?
・未来円錐の外には何かあるのか?(Vorosが追加した「荒唐無稽な未来」、あり得ない結末はあり得るのか?)

さらには、未来円錐の中で起きる様々な「出来事」の相互関係や未来への影響が考慮されていないのも問題です。過去が未来にどう影響を与えているのか、具体的に分からないということです。それと根本的な疑問ですが、「過去も未来のように分岐するのか?」という問いが生じてきます。

 特殊相対性理論とミンコフスキー時空図

20世紀初頭、18世紀より続くニュートン物理学が論理的思考のすべてだった時代。

1905年、アルバート・アインシュタインが「特殊相対性理論」を発表しました。その中で、一定の速度で相対移動する場所同士の運動をどう解釈するかが説明されましたが(Zimmerman Jones & Robbins, n.d.)、当時は非現実的で不合理と嘲笑されることも少なくありませんでした。伝統の英国的物理学に一石を投じたわけですから(Wills, 2016)。

しかし特殊相対性理論によって「空間と時間」の間に根本的なつながりが生み出されたことは無視できません。ここから宇宙を4次元(3次元+時間)的に捉えられるようになったからです。未来予想の大きな契機になりました。

同時期、1907年にヘルマン・ミンコフスキーが特殊相対性理論を基に、空間と時間の関係の視覚化を試みました。それがミンコフスキー空間です。

ミンコフスキー時空の四つの要素を説明してまいりましょう。 (Sard, 1970)

・観測者は時間の一点で起こっている出来事に立ち会っている。

・未来光円錐
今後のすべて未来で起きることであり、理論的にはその出来事は光円錐中のすべての事象に影響を与える。

・過去光円錐
過去に起きたすべての出来事であり、現在に起きた出来事にも関係する。

・円錐の外
出来事に影響されない領域。別宇宙とも呼ばれる。

「光円錐」は未来光円錐と過去光円錐の二つに分けられます。しかし現在を表す光円錐の頂点の出来事に直接または間接的に関係しているのは、過去の光円錐内の事象です。それを原因として、未来光円錐内(だけ)の出来事が起きます。

因果曲線 (Norton, 2015)

未来円錐と光円錐で未来予想

最近発表された「機械学習」についての論文(Vlontzos , Rocha, Rueckert & Kainz, 2020)で、他の学問分野でも特殊相対性理論が応用できることが証明されました。

ならばミンコフスキー空間も未来研究に応用できるはず。現時点での我々が持つ以下の疑問点に、答えを出してくれるかもしれないと期待しています。

・円錐の頂点に立つ観察者は誰か?

・未来円錐は、「みんなにとっての未来」なのか、誰かの主観なのか?

・未来円錐の外には何かあるのか?(Vorosが追加した「荒唐無稽な未来」、あり得ない結末はあり得るのか?)

・未来光円錐で「因果関係」をどう説明するのか?

特殊相対性理論がミンコフスキーの光円錐で説明できるのなら、このように未来(と過去)の概念化を深めることができるのではないでしょうか。

名付けて「全の光円錐」

絶対未来

円錐の先端は出来事の現在を表しているとして、円錐は一つしかない絶対的な未来をより「リアルな」表現をしていると言えます。つまり、未来円錐とは観察者の主観的な想像や視覚化というよりも、ある出来事の客観的未来が無限の可能性に開かれているという「事実」の視覚化なのです。

過去の複数性

従来の未来円錐には過去が含まれていませんでした。しかし、未来予想に過去を顧みることは欠かせないことです。私の考案した全の光円錐では、枝分かれする過去の可能性をすべて含んで、過去の複数性を強調します。その中に「絶対過去」があり、これが円錐の先端に起きる出来事に関係してきます。つまり、未来が複数あるなら過去も複数ある、ということです。それら過去光円錐の内側で起きた様々な出来事が、因果曲線を巡り巡って、現在の出来事を創るのです。

因果

ミンコフスキー光円錐を使って、どの出来事がどの結果につながるかという「因果関係」を示すことができます。ある出来事Pがあるとして、未来と過去の光円錐内で起きたすべての出来事を一本の線で結ぶことができるのです。「今この瞬間」に起こっていることが未来に直接影響を与えているということが明示されているので、実質的にアマラの第3法則が示されていることになります。

同様に、全の円錐における未来円錐は、絶対的な未来というよりも、自分たちが変えられる未来ということになります。昨今の作品でよくカオス理論のバタフライ・エフェクトが扱われますが、小さな出来事は実際に大きな違いを生むのです(Vernon, 2017)。

未来の全一性

特殊相対性理論とミンコフスキー時空図では、未来も過去も、「可能性が高いこと」や「あり得る」「あり得ない」で区切られておらず、全てひっくるめて未来円錐や過去円錐として表されています。それを制限している唯一の留め具が、「光速」です。光速以上の出来事はミンコフスキー時空で表すことができません。要するに、光速以上の出来事は「起こり得ない未来」と定義されているのです。裏返せば、アインシュタインも述べていたように、円錐の内側の出来事は何でも起こり得るということです。私の「全の円錐」なら、この制限の外側へと思索を伸ばしていけます。

未来円錐のむこう側

光円錐の向こうには、何があるのか?現在の研究では明らかにする術はありませんが、Voros (2017)はそれを「潜在的未来」と表現しました。肝心の「そこに何があるのか?」という疑問は払拭されないままです。ミンコフスキー時空で見ても、現在の事象Pと因果関係にある過去と未来のすべての事象をカタログ化したとしても、その外にあるものは見ることも知ることも、交信することもできません。この世界とは関係がなく、異なる出来事を経て異なる進化を遂げた、異なる未来を歩む別宇宙であるということです。

エピローグ

宇宙のすべての物理現象を説明できる万物理論という仮説がありますが、20世紀初頭に量子力学とアインシュタインの相対性理論が出てきて以来、研究者たちは万物理論を探し求めてきました(Mann, 2019)。本稿では未来学と物理学を融合させた万物理論はとても提示することはできませんが、相対性理論を土台に、(1)未来のイメージを従来よりも幅広くし、(2)ほんの小さな行動が未来の出来事に大きく影響することに気づき、元気付けられたら良いと思っています。

参考図書
Amara, R. (1981). The futures field: Searching for definitions and boundaries. The Futurist, 15, 25–29.

Dowden, B. (n.d.). Time Supplement | Internet Encyclopedia of Philosophy. Retrieved November 24, 2020, from https://iep.utm.edu/time-sup/

Dray, T. (2012). The Geometry of Special Relativity (1st edition). A K Peters/CRC Press.

Kramer, M. (2013, August 14). The Physics Behind Schrödinger’s Cat Paradox. National Geographic News. https://www.nationalgeographic.com/news/2013/8/130812-physics-schrodinger-erwin-google-doodle-cat-paradox-science/

Mann, A. (2019, August 29). What Is the Theory of Everything? Space.Com. https://www.space.com/theory-of-everything-definition.html

Norton, J. (2015, February 9). Spacetime. Einstein for Everyone. https://www.pitt.edu/~jdnorton/teaching/HPS_0410/chapters/spacetime/index.html

Sard, R. D. (1970). Relativistic Mechanics – Special Relativity and Classical Particle Dynamics. New York: W. A. Benjamin. ISBN 978-0805384918.

Taylor, C. W. (1990). Creating Strategic Visions. Strategic Studies Institute, U.S. Army War College.

Vernon, J. L. (2017). Understanding the Butterfly Effect | American Scientist. American Scientist, 105(3), 130.

Vlontzos, A., Rocha, H. B., Rueckert, D., & Kainz, B. (2020). Causal Future Prediction in a Minkowski Space-Time. ArXiv:2008.09154 [Cs]. http://arxiv.org/abs/2008.09154

Voros, J. (2017, February 24). The Futures Cone, use and history. The Voroscope. https://thevoroscope.com/2017/02/24/the-futures-cone-use-and-history/

Wills, M. (2016, August 19). Why No One Believed Einstein. JSTOR Daily. https://daily.jstor.org/why-no-one-believed-einstein/

Wiseman, H. (2012, June 13). Explainer: Heisenberg’s Uncertainty Principle. The Conversation. http://theconversation.com/explainer-heisenbergs-uncertainty-principle-7512

Zimmerman Jones, A., & Robbins, D. (n.d.). Einstein’s Special Relativity. Dummies. Retrieved November 23, 2020, from https://www.dummies.com/education/science/physics/einsteins-special-relativity/


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