ナイトメア

 エッセイは、著名な人が書いたものだから価値があり、読もうとするものらしい。確かに。無名な若者が目指そうとするものは面白いかタメになるもの2択ということか。ならやりやすい。

 ほんだい

 限定された社会には、多様性というものは認められにくい。今よりも、小学生のときのほうが人の目を気にして、画一化が激しかったと思う。

 必須アイテムはDSかPSP。「どちらかを持たざる者排斥すべし」といわんばかりの流行。小学生のヒエラルキーというのはセンシティブでシビアである。人と違うと捉えられてしまったら、すぐに除外される危険性がある。蹴落とされてしまえば、朝礼にPTAの誰かのお母さんが出てくるほどの事態に発展しかねない。

 小学生2年生の僕は、なんとかお年玉を有効に活用し、DSLiteとポケモンを手に入れることができた。当時の2万円は、計り知れないほどの価値がある。一緒の棺桶にDSを入れてほしいくらいだ。

 いまだヒエラルキーの入り口に立っただけなのである。いわばポケモンを代用した熾烈な戦争に参加を表明しただけなのであった。

 しかし、純粋なポケモンの強さを競う楽しみ方は影を潜め、レアポケモンが絶対権威を持つ、コレクター的で変態的楽しみ方に変わっていた。

 現実世界で金を積んで、チートグッズが手に入れ、レアポケモンを確保する。親から金を搾取するこどもの悪行が蔓延る醜いヒエラルキーに変わっていた。

つまり、レアなモンスターをいかに所持し、「いつでもお前を倒すことができるぞ」と、虚栄を張る戦いに発展していたのである。極々小さな冷戦。

 従来の手に入るポケモンのみでは太刀打ちする私兼庶民派は、金持ちチートマンたちの横行を止めることはできなかった。マスターボールを媚びたり、絶対に手に入らないポケモンを吊って、仲間同士で戦わせるような王政ある無情な日々が続いた。

 ここで、天変地異も起こりかねない、大逆転が可能なイベントが発表された。映画上映に伴う伝説のポケモンの配布である。

 このチャンスを逃したら、果てしない競争社会から大きく後退してしまうことを恐れる小学生一同は、団結し、夏休みの一日を使い、遠くの街の映画館までの計画を緻密に立てた。遠くの街の社会科見学という皮を被せ、経費の3000円を計上。会計を務める母から認可をもらい、したり顔。

 実行前日、1枚のチラシが手に入る。「〇〇町(私の地元)の文化会館で『ディアルガVSパルキアVSダークライ』上映決定!」

 ここでガキなりの悪知恵の本領発揮される。

「もしかして、2体目が手に入るの逆転のチャンスでは、、、?」

 心躍らせるガキどもは大逆転を賭けた社会見学の資金3000円の中から、もう一度映画を見るための費用800円を抜いた。そうして、まず、念願のダークライ一体目を手に入れた。

 後日、二体目を捕獲するため地元の映画館に向かった。ソフト1つにつき、1体の限定を知らされ、計画は破綻した。地元で見ることができる稀な映画鑑賞を無為なままに、過ごした。

 家に帰ってポケモンしてたら、脱いだズボンのポケットからチケットの半券が見つかり、2度同じ映画を見たことをこっぴどく叱られた。金の所在を突き詰められたことと、かつ、同じ映画を見るためにはあってはならないことなのである。

 消えた名誉と3カ月のお小遣い停止の処分。結局ダークライはみんなもってて、価値のないものとみなされ、ボックスの片隅で眠ってしまいました。そうして、次第にイナズマイレブンにゲームの主流タイトルは変わっていきました。

 違う形で小学生ヒエラルキーの頂点に立つのは、また違うお話。



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