見出し画像

家族の思いを胸に、300人以上の震災避難町民をおむすびで繋いだ物語

プロローグ〜描きたい未来〜

浪江駅から歩くこと5分。心地良い日差しを感じながら、いよいよ『おむすび専門店"えん"』を開業する日がやってきた。
ドアを開けて店内に入ると、目の前にはおむすびを頬張るお客さまとほのかに香る海苔やお米の匂い。

おむすびとの出会いは、わたしにとって新しい人たちとの出逢い。
わたしはおにぎりではなく、"おむすび"と呼ぶ。お結び、縁結び。
そう、数えきれない多くの大切なものが失われた大震災でも、その後に生まれた、かけがえのない繋がりもたくさんある。

おむすびを通して、お客さまが嬉しさを噛みしめながら微笑んでいる。
平日には現場作業員の方、近隣で働いている方、町民の方々がお腹をぺこぺこに空かせてやってくる。
休日は、子どもたちを連れたお父さん、お母さん、SNSやクラウドファンディングで繋がった大切な仲間たち。

そして「避難中の町民が"ただいま"と戻ってくる場所にしたい。」
そんなわたしの想いが届いて、久々に浪江町に足を運んだ町民、元住民。
いまの浪江町は、昔とは違う。
過去の街の姿は取り戻せないけど、町には希望や夢、ポジティブな空気感で満ち溢れている。ほかほかの美味しいおむすびを食べるとき、人はなぜか笑顔になる。その笑顔を見るとわたしもとても幸せになる。

「ただいま!」
「おかえり!」

そんな会話が自然とできるお店を目指して、今日もおむすびとともに愛情を握る。

*本記事は、クラウドファンディング"One for Oneプロジェクト"のアーカイブになります。

避難中の住民、元住民がふるさとに戻るきっかけづくり!

東日本大震災前、約21,000人いた浪江町民は、原発事故の影響で震災後すぐに全町避難を余儀なくされ、震災から6年は誰も立ち入ることのできない地域となりました。
震災時、栃本さんのご家族はみな無事でしたが、その後避難生活を余儀なくされました。避難先で生活している町民は未だに約15,000人もいます。様々な事情で住民票を移してしまった元住民もたくさんいます。そんな中、プロジェクトの主人公である栃本さんにクラウドファンディングに挑戦したきっかけを聞いてみました。

クラウドファンディングへの挑戦

福島県双葉郡浪江町のおむすび専門店「えん」を2023年7月にオープン予定の栃本あゆみです。
浪江町は今、この地域でチャレンジしたい!という人々の活気で溢れ、2023年1万人以下の地域での住みたい街ランキングでは1位になりました。

また数年後には世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」である福島国際研究機構(F-REI)が稼働するなど、世界的に見ても挑戦心溢れるまちです。東日本大震災による避難によって一度人口がゼロになったからこそ、何か挑戦したいという想いをもった人たちが次々に集まりはじめています。わたし自身も2021年にこのまちに戻ってきました。

仮説商店街のとき

「なぜ”おむすび”なのか?」

詳細は後述しますが、おむすびには老若男女さまざまな場所で、人と人との距離を近づけてくれるパワーがあると思っています。おむすびを通して、浪江のことをもっと知ってほしい、足を運んでほしいです!

また、未だ避難中である町民がふるさとを訪れ「ただいま」と「おかえり」が行き交うような空間をつくりたいです!えんのおむすびだけでなく浪江の名産品をみなさまにお届けします。

そして、避難中の町民が「ただいま!」と故郷に戻るきっかけを一緒につくりませんか。わたしたちは歩み始めています。でも現地の力だけではどうにもなりません。みなさんと一緒にできる復興の形をつくり、浪江町が世界で一番活気が溢れるまちを目指していきたいと思っています。

12年前のあの日から

栃本さんは18歳まで浪江町で生まれ育ち、高校卒業後に東京で働き始めました。
そして、震災後の2021年に浪江町に帰ってきました。震災前は地域活動や多世代交流が盛んで、町内でもいろんな取組やイベントが行われていたり、飲み屋が沢山あったりと、とても活気ある地域だった浪江町。また、人々の営みや文化を感じられるお祭りがあり、そこでは地域の人々が集い、楽しみ、語り合う場となっていたそうです。

伝統を誇る祭りと踊り|出展元:福島県浪江町

しかし、2011年、みなさまも記憶にある12年前のあの日。

大切なものを一瞬にして奪い去った東日本大震災が発生し、美しく穏やかだった故郷の風景は一変してしまいました。福島の被災は放射能に注目されがちですが、浪江町は地震・津波・放射能の3つの被害を受けた地域です。
原発事故が起こったことで、津波被害の救助や捜索は中断せざるを得なくなりました。


地震で崩壊した建屋|出展元:福島県浪江町

約21,000人いた町民は、原発事故の影響で全町避難を余儀なくされ、震災後6年は誰も立ち入ることのできない地域になりました。栃本さんの家族はみな無事でしたが、その後避難生活を余儀なくされました。避難先で生活している町民は未だに約15,000人もいます。

今なお多くの人々が散り散りになり、故郷に戻るきっかけを無くした人もいます。そして、震災から月日が経つにつれ、メディアの報道も少なくなり、浪江町の本当の”今”を知る機会が少なくなっているのが現状です。

しかし浪江町には、一度0になった地域なので本当に残したいものを残し、本当に必要なものをつくり、古いものにとらわれず新しいことに挑戦していけるようなまちの雰囲気があります。

おむすびとの出会い

なぜ、栃本さんが浪江町でおむすび専門店「えん」を立ち上げようと思ったのでしょうか。以下、栃本さんの想いをそのままの言葉で紡ぎたいと思います。

*****

浪江町でおむすび専門店「えん」を立ち上げようと思ったきっかけの話をさせてください。

避難中、父と祖父母たちは、「浪江町に帰りたい」と繰り返していましたが、ふるさとに戻ることができないまま、避難先で亡くなってしまいました。わたしは大切な家族をふるさとに帰らせてあげられなかったという無念さが今でも残っています。避難先で人生の最期を迎えた父や祖父母たちは悔しかっただろうなっていう思いもあります。

色んな想いが重なり、避難先の町民が浪江町の帰れる場所を作ろうと思い、自身のふるさとである浪江でお店を開くことを決意しました。

そこでどんなお店にしようかと思った時、「おむすび」が頭に浮かんだのです。東京に上京したばかりの際、炊き立てのご飯で握られたおむすびに心を癒された記憶が蘇りました。

おむすびってすごいんです。ほかほかお米と、ちょこっとした具と、海苔だけでできているのに、一口食べればもう幸せ。そして人の温もりを感じて、元気をもらえる気がするんです。

そんなわたし自身の経験と思い出から、一粒一粒のお米からご縁を結ぶように、人と人の心の繋がりを大事にしていこうと。おにぎり店ではなく、縁結びとしての”おむすび”専門店として店名を「えん」にすることにしました。

ふるさとや町民、そして訪れた人に食材を作った人、おむすびで縁を繋いでいきたいという意味が込められています。2021年に仮設商店街で1年間の営業を経て、2023年8月に移転オープンしました。

“震災”、”原発”、”津波”そんな言葉にはネガティブなイメージが付き纏いますが、浪江町は人々の温かさ、優しさ、強さといったポジティブかつ魅力に溢れています。

ゼロからのまちづくりにのぞむ浪江町では、後ろ向きではなく、明日に向かって前進する人々や復興に情熱を注ぐ人々が大勢いらっしゃいます。そして、チャレンジを支えてくれる、温かく寛容な人々が沢山いるんです。ゼロから何かを始めるのは怖いものですが、みんなが背中を押してくれて、お互いに見守り支え合う眼差しがあるんです。

そんな地域の方と一緒に想い・ストーリーを発信して、遠くからでも浪江町を知ってもらえる機会をつくりたいと感じました。避難中の町民の方には、いまの浪江町を知ってもらい、戻ってこれる場所がある、ただいまに答えてくれる場所があるんだよ!ということを伝えたいです。

そして訪問者や離れた場所からでも、浪江町はこんなにエネルギーに溢れていて、これからの未来をみなさんで一緒に創っていきたいということを伝えていきたいです。そして私たちと同じ想いを持ち、浪江町に深く携わっていただいているNOFATEさんからご助力いただき、このプロジェクトを立ち上げることにしました。

関係した人たち同士が繋がれる、”えん”から始まるものがたり。みなさんのご縁から、この浪江町が世界で一番活気溢れるまちになりますように!

*****
そんな思いやりから始まったクラウドファンディング。
クラウドファンディングでの応援は、えんで使える飲食チケット ”ただいま券” として、避難中の浪江町民に届けられました。
"One for One"とは、まさにリターンを1つ購入すると、避難町民1人がふるさとに戻るきっかけとして当店でのおむすびを食べる機会が得られるのです。

40日間のプロジェクトの挑戦により、304名の避難町民の方々にただいま券を配布することができました。プロジェクトでは、えんで使える飲食チケット、地元の特産物、ネーミングライツをリターンとして、多くの人にえんからの愛を伝えることができました。

オープンしてから約半年。
夢に向かって挑戦は始まったばかりです。これからもおむすびから繋がる"えん"の輪を、たくさんの人に広げていきます。

えんのインスタグラム:
https://www.instagram.com/omsubi_en_fukushima/

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます! いただいたサポートは、取材やクリエイターの活動費として使わせていただきます。