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決意

「おんぎゃあ」っと元気な声が分娩室にひびきわたる。きみの最初のことばだね。あの時のことは何があっても忘れはしない。 

念願かなって出産に立ち会えたことが私の一生の宝物だ。



 きみは温かな羊水に包まれている。ことあるたびにママのお腹に話しかける。

「おはよう」「ママのお腹が動いたよ」「仕事に行ってくるね、また夜に会おうね」

私は思う。きみを抱きしめたい、と。

 私の小指にみたない小さなきみを見るために、エコー画面を見つめる。

目の前で一生懸命生きている。手足をちょこちょこ動かして米粒ほどの心臓を、いちずにひびかせる。

 「ああ。はやくきみに会いたいな」



 とうとうこの日がやってきた。東の空が白むころ、いよいよ陣痛がはじまった。

 ママは16時間も、幾度となく押し寄せる激痛に命がけで耐える。

 きみがおなかの中から顔を出す。「あともう少しだ。頑張って」きみとママにエールを送る。吸引カップが頭を引っ張り出す。

狭くて息苦しい産道を通り抜け、寒くて、まぶしい世界にやってきた。



「おめでとうございます」分娩室全体が祝福に包まれて、永遠の幸せに満たされる。

「初めまして、こんにちは」私はぽかぽかしたきみをこわごわと抱きよせる。目頭からこみあげてくる涙で、きみの姿がぼやけてしまう。人前での恥ずかしさも忘れて、うれし泣きだ。

助産師さんが私たち3人の記念写真を一枚撮ってくれた。きみは男の子だ。



 疲れきったママは眠りについた。
 きみは温かな保育器に入り、まぶしさを避けるためにアイマスクをつける。アイマスクは愛らしいウインクのイラストだ。



 ママから切りはなされて、ここちの良いあの羊水の中には二度と戻れない。これからは、小さな肺で呼吸をする。自分の力で生きるのだ。

 やまない泣き声をききながら、きみを守ると決意する。そして、父になったのだ。



 きみの幸せは私の幸せ。

 家族の幸せは私の幸せ。

 私の幸せは私たちの幸せとなる。

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