些細な理不尽を交代しながら、日常は滞りなく回る

報告を受け、手短に通知を切った。
ろくな支度もせずに玄関を飛び出していく。
自宅から50メートル先、周辺住民のみが使うゴミ捨て場に、ソレはあった。
数は2つ。

掴んでみると、薄いビニル袋がカサっと控えめな音を立てる。
だが、ズッシリと重い。
腕が持って行かれるほどだ。
女の片手で持つのは難しい。年配の方だってそうだろう。

昼下がりの閑静な住宅街に、ガランガランと耳障りな金物の音が響く。
中の物がぶつかり合っているのだ。

自宅までは目と鼻の先。
誰かに見られでもしたら、なんて思われるだろうだろうか……。

一体どうしてこんなことになったんだろう。
仕方ない。運が悪かったんだ……。
憂鬱な1週間を送ることは想像に難くない。

荷物が盛大な音を立てているのだから、誰にも他のことなんか聞こえやしないのに、言い訳のように小さくため息をつく。
「これは私のせいじゃない」

家屋の横は、駐車スペース用にコンクリートを打ちつけてある。
そこに置くと、またガランガランとけたたましい音を立てた。

これだけの距離なのに、痺れてしまった手を軽く振り、脱力感を引きずりながら家の中へと戻った。
まずは手を洗いたい。
ふいに、テーブルに置きっぱなしの1つのファイルが目に飛び込んできた。
思わず、それを恨みがましく睨みつける。

――――――
【ゴミ当番札】
※担当は1週間です。
※担当期間が終わったら、速やかに次の人へ回してください。
※不法投棄が増えています。見かけた方は班長へ連絡をお願いします。
――――――

そういえばと、1ヶ月ほど前の冷たい雨の日を思い出す。
自転車で買い物に出て急に降られた昼下がりだ。
あの日もゴミ収集車が行った後にゴミ袋が放置されていた。
「回収不可シール」が貼ってあったかは定かではないが、同一人物なんだろうか……。

この辺りは家族連れや高齢夫婦が多いが、重さからして、女性や高齢者が1人で運ぶには無理がある。
車で持ってきたのだろうか。

中身は古褪せ、どこか懐かしい雰囲気さえする茶筒や正方形の銀色の缶。平成を通り越し、昭和から家にあったといわれても違和感はない。
遺品整理だとしても、訃報があったなら町内会で回覧板が回ってくるはずだ。


ふぅ、とまた小さくため息をつき、プロファイルはそこまでで終える。

この辺りは、それこそ昭和の終わりか平成の始まりに建てられた家も多い。
自分だってその1つの中古に住んでいる。
室内で背景と化した要らない物を断捨離でもしているのだろう。

1か月前と同じ人なら、分別のことなど気にしていないはず。
こちらが頭をひねらすだけ無駄だ。


無作法な誰かの後始末は、たまたまそのときゴミ当番だった誰かがやる。
そんな些細な理不尽はどこにでも転がっている。顔も分からない誰かと交代しあって、日常は回っているのだ。

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