上司って触っていいのか

これは2023年のたしか秋ごろにルーズリーフに殴り書きした
エッセイに憧れた文章です。
noteに移すにあたり特に推敲はせずその時のままの文章になっています。
いまだに答えは出ていないので誰か正解を教えてほしい。

以下です

上司って触っていいのか

私はパーソナルスペースが広い人間だ。
小さい時からというわけではないような気がする。
幼稚園くらいの頃には、
「どっちにする?」と両親が差し出してきた手を両方つないで、
幸せな親子像の権化みたいなことをしていた。

小学三年生の時は架空の恋愛ドラマの最終回を作り上げて
友人(同性だよ)とハグ、エンディングで手をつないでダンス、まで
意味わからんふれあいをしていた。

いつから人と触れ合うことを避けるようになったのか。
とはいえ元々潔癖のケはあって、こうなるのも必然なような気もする。

そんな私は社会になじむことに苦労しつつ散歩中の可愛い犬を見ては、
は~、早く犬になりたぁい と思いながら日々会社勤めをしている。

ある日、上司に聞かないといけないことがあったので、
上司のデスクまで聞きに行くことにした。
机は8人掛けの島になっていて、向かいと左右にパーテーションがある。
上司は私からちょうど対角線のエリアにいる。
この場合向かい側を横切ってから上司に近づくか、
背後からスネイクのように隠密ライクに近づいていくか二通りのルートがある。
ただ、上司の向かいを横切って近づくルートは、
部屋自体の中央付近を通ることになる。
ちょっとオンステージみが強いな…もっとコソコソしたい…。
と思った私は当然背後から近づくルートを選んだ。
ジャマしてすまんやで。ホントはワイもこんなこと聞きたないんや。
と思いながら近づいて上司の斜め後ろに立った。
そこで「スミマセン、上司さん」と声をかけるのだが反応がない。

えっ
反応がない。
無視だ。えっ。

無視されてる!?この私が!?
別に嫌われているどころかむしろ「ふーん、おもしれーヤツ」的な好感を抱いてもらっている自負はあったのに、無視!?なんで!?度胸試し!?
おまえはいつも声が小さいので、このくらいのことはしてやらんとな…的な挑戦を私に持ち掛けているのだろうか。
訓練のため獅子が子を崖から突き落とすときのように、
上司から私に突如与えられた試練なのだろうか。
だとしたらなぜこんな仕事中に。秒で終わる話ですよ。と、この間コンマ何秒で思考を巡らせて、
あ、じゃあ、まあちょっと声を張ればいいんじゃん、と
「上司さん」と少し声を張ってみた。

反応がない。
えっ。

うわあ~~!!嫌われとる~~!!なにかやらかしました?いや嫌いだったとして仕事にそんな、あからさまに持ち込んじゃダメだよ。上司の向かいの席の同僚さんもチラッとこっち見てるよ!!無視されまくってて、はずかしいよお!穴があったら、入りて~もう、会社やめなってこと!?じゃ、やめましょうか!?いま、この場で帰っちゃいましょうかねえ。

と半ば自暴自棄になったところで、あることに気が付く。
上司の耳にきらりと光るApple純正ワイヤレスイヤホンである。

ここで、嫌われてたわけじゃなかった!という安堵とともに、
こんな斜め後ろの近距離に立ってて気づかないもんかね!?隙だらけだね。手刀でやられちゃいますよ。という上司への理不尽な怒りとアサシンごころが湧いたがグ…と堪え、ここはじゃあトントンと叩いて気づいてもらうほかない。ということになった。

そこで私の中に新たな疑問が生まれる。
「え、上司って、そんな気軽に触っていいの?」という問題である。

私は10年一緒にいる友達と歩いていて、手がペチッとぶつかるだけでも
「あっ…」と意識してしまう人間である。
同性ですらスマン。と思うのに、異性~!?なんかあんま触っちゃいけない気がする。謎にお花畑な思考がよぎる。
異性てか、目上の人~!?
時代が時代なら、無礼者ー!!と叩き斬られそうな気がする。
しかしトントンしないとこちらに気づいてもらえず、
上司のスタンドとして一生過ごすことになってしまうし、
オフィスで立ち続けていることが目立って目立って仕方がない。
恥ずかしい。それは嫌だ。
意を決して肩をトントンしようと思うのだが、
どこら辺に触ったらいいのかわからない。
肩?肩は肩でも、肩のどこだろう。
骨が出ている所をピンポイントで攻撃するのも妙な気がするし、
おじいおばあの肩たたきの時に叩くところは体の中心に近すぎる気がする。
う、うでか!?腕ならいいのか…でも、思いのほかプニッとしていたら、
あっ へっこんだ。とか思ってしまいそうだし、どの辺を触ったら正解なんだ。人間をトントン触るときって、どの辺を触っていたんだっけ。
まず、やはり、上司なので、手のひらで、指の腹で…というのはあまり直接的すぎるのではないだろうか。
この数瞬、時間にして5秒もない。葛藤しすぎである。

ええい、ままよ。とばかりに、
でも半分首をかしげながら私は、手刀の形をとり、上司の…腕の…幼少期に予防接種とかで、クリリンのおでこの6つの点みたいなのがつくあのあたりにトントン…と手刀をした。

上司はふつーにイヤホンを外してふつーに「ハイ」と言った。

ああ~これだから生きるのって難しい。と思いながら、
嫌われていたわけじゃなかったことにホッとしたのだった。

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