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メルボルンで塀を修理する

うちの庭の「塀」が倒れかかってるのに気づきました。

その塀は裏の家との共有で、うちと反対側、つまり「裏の家の方向」に傾いている。見に来た修理屋さんは「あー、こりゃあっちの庭からグーっと押さなきゃだめだね」と言った。裏の家に話をしに行かねばならぬ。

裏の家とは交流がありません。どんな人が住んでいるかも知りません。

いつもカーテンがぴっちり閉ざされてるし、イキモノの声がしないし、ごみの収集日にゴミが出されているのを見たこともない。

じゃあ空き家なのか?というと、これまた、車が停まってたり、停まってなかったりする。「ナニカ」がうごめいている。しかもうごめくのは夜の間らしい。江戸川乱歩先生にぜひ取材してもらいたい。

とりあえずはピンポンしにいかにゃということで、頭の中で会話のシミュレーションをしてみる。話の流れとしては

① 私はあなたのご近所さんである

② 私は裏の家に住んでいる

③ われわれの共有の塀の修復が必要だ

④ ついては、あなたの庭に入らせてほしい

イタリア人の修理屋さんは「笑顔笑顔!笑顔で行けばたいてい大丈夫ダヨー」と言ってた。

いやでもさー、高いテンションで「Hi I’m your neighbor!ハーイ!あなたのお隣さんですよ~!」ってなんか猛烈に怪しくないか。そんな人が来たら瞬時にドアを閉めたほうがいいレベルだ。落ち着いて「アイアムユアネイバー」って言うと、今度は、スターウォーズの「アイアムユアファーザー」っぽい。

①を飛ばして開口一番②で行こう。

家を出ながらブツブツと「裏に住んでる者なんですけど」と「セリフ」を練習し始めて、ハッと青ざめた。「裏に住んでる」ってなんて言うだよ?

「I’m living in your backyard! キミんちの裏庭に住んでるよ!」

「I live behind your back! あなたの後ろに住んでるよ!」

「I live on your back! あなたの背中に住んでるよ!」

どれも絶望的である。一番目は犯罪だし二番目は怪談、三番目なんて、風の谷のナウシカの背中に乗ってる動物みたいじゃん。可愛すぎやしないか。

深呼吸して、口角を上げて、指先に力を込めてピンポーンと押したが誰もいない。ホッ。

しょうがないので「かくかくしかじかで塀について相談したい」と手紙をしたためこちらの携帯番号も記して郵便受けにポンと入れたがなしのつぶてである。

でも次の日に郵便受けをのぞき込んだら、ちゃんと手紙はなくなっていた。

無言。へーえくらい言ってほしい。

これで作業当日に「ヘイヘイ!なにしてやがんだ」と出てきたって知らないからね!

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