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JOKER ; トリロジーの序章として鑑賞すべし

幸福とは「自己肯定感」と私は定義している。
多くの人が”それ”を求め続け、生き、苦しみ、時に掴めずに死にゆく。
それは何故なのか。

資本主義。
戦争で肉体的に死亡する機会が減っても、精神的に削られていくこの磨耗する世界へ、一つの現実を見せつけるかのような作品が「JOKER」だ。
DC Comicsバットマンシリーズのヴィラン、JOKERにフォーカスを当てる。

踏まれなければ、その痛みはわからない

自分もそういう時期があったのだけれど、自分以外の何かへ憎悪を抱く時というのは、根本的に相手に攻撃されたと感じた時であることがほとんどだと思う。

そして、世の中には、攻撃をしている側に、その自覚がない場合がある。
しかし、資本主義社会というのはマウンティングが基本。

相対評価・上下評価が基軸になっていて、例えば年収であるだとか、職位だとか、知名度だとか、そういうもので上位になった人物が、自分よりも下位にいる者を見下すことで、安心感や自己肯定感を得る仕組みに、根本的になっている。

人間も動物であって、自然界自体も体の大きさなどを見せつけあって戦い合う訳なので、ある程度マウンティング行為というものは遺伝子的に組み込まれているものだとは思うけれど、資本主義社会というのはそういう行動を促すように、意図的に設計をされている。

そんな中で、ものすごく強い自我の目覚めによって、自ら主体的に意思を持って平等性を貫く、というのはなかなか難しいながら、ティール組織が好まれる昨今、そういうものにもう疲れたのだという風潮は大きくなってきているように見える。

Facebook疲れ、友人とだけのSnapchatやInstagramの流行などもその一端なのだろう。

バットマンシリーズの舞台、ゴッサム・シティは、まさに資本主義に疲弊しながらもそこから逃れられない、社会の闇を端的に表したような世界だ。

下位層の市民は、上位層への激しい憎しみを以ってデモを起こし、金持ちを殺せと叫ぶ。
後にバットマンとなるブルース・ウェインは、その憎しみの矛先として、目の前で両親を殺されることとなる。
ブルースには、きっと最初、その意味がわからない。
事故のようなものだと考えるしかなかっただろう。

しかし、これは輪廻に近い。
踏まれている方には日々とても強い痛みが訪れる。
貧困、侮蔑、暴力、未来への絶望。
同じ土俵の人間たちだけならまだいいのかもしれないが、いつだって、見上げれば、自分の存在にも気づかずに土足で踏みつけている者たちが、優雅に笑っている。

目の前に、自分の劣等感をまざまざと見せつけるものがいつも存在して、憎しみを抱かずにいるのは難しい。
JOKERは劇中で、直接害を与えてきた金融機関勤務の若手男性や同僚を手に掛けるが、多少の否定を与えたとは言え、自身を番組に招き話を聞こうとしたマーレイをも撃つこととなる。

この時の心情としては、自身の苦しみも知らず、きらびやかな世界を見せつけてきた上位層の象徴として、憧れと憎しみが混在していたものと想像しうる。上位層への切符へとも思われたその機会は、復讐への序章となった。

ここでのもっとも恐ろしい示唆は、誰もが誰かの憎しみを、知らずのうちに買っている可能性があること、という点だと思う。
誰かを蔑み傷つけることで満たした承認欲求の代償は、決して小さくない。

劣等感から這い上がって”その景色”を見れるのは自分だけ

一方で、それでは、そこで憎しみを抱いたまま、他者へリベンジすることを目指すべきかというと、そういう訳ではないというのが個人的な感想だ。

JOKERにも、復讐の象徴以外に、幸せになる道はもちろん存在した。
彼が本当になりたかったのは、そもそもコメディアン。
ピエロの化粧をし、込み上げてもいない笑顔を顔に貼り付けて、道化を演じ、止められない笑い声を発症してまで、彼が心から求めたのは、自分の周りの皆に、楽しみ、笑ってもらうことだったはずなのだ。

それが、積み上がった不遇の結果、歪んでしまった。

運も生い立ちも個体差も当然ある。
差別は、ない世界の方が幻想だ。全員別の人間なのだから。
成功者などおらず、ただ、自身の自己肯定を諦めなかったどうかだけで、最後に本人が何を思うかですら、その人次第である。
私はそんな風に思っている。

フレディ・マーキュリーも、エルトン・ジョンも、それを教えてくれたのではなかったか。

望んだかに関わらずマイノリティとしての個性を生まれながらに持ち、自身を認めてもらえない環境にあり、時に裏切りに苦悩しながらも、自分のあり方を模索し続け、その過程で多くの人々に影響を与える機会を得たのではなかったか。

我々は、その上下構造によって、自己の判断基準を見失い、自分を害するものを激しく憎み、時に劣等感故に逃亡し、それでも認めてくれる人の言葉に喜び、期待を裏切られては、また迷う。

それでも、自分が望んでやまないその景色を掴み取らねば満足は得ることはできない。どんな手段を取ろうと、それを見に行けるのは自分だけだ。
その階段を登るのも、降りるのも。

幸せになるということが自己肯定なのだとしたら、その階段がどれほどの長さであろうとも、心が折れるか折れないかという自己との葛藤が全てだ。
階段の長さが短いか長いかという点に、運命の違いはありながら。

”他人からの愛”は安定剤でも麻薬でもある

自伝系の作品に関わらず、多くの作品の中で、登場人物たちが求めて彷徨うもの、それが愛、に見える。

最初に自らに存在理由を与える親。
学校や組織で関わっていき、自分を認知する友人。
生まれて初めて自らが個人的関係を持ちたいと望み、選ぶ、恋人。
また、それに加え、”社会”からその個性を認められたいと望む。

”民衆の知名度”が愛だと考えそれを求めるものたちは、多くの作品で、その衰退や虚構性にいつしか期待を折られ、そこに望んだ温かさがなかったことに涙する。
エンターテイメントと個体認知は、別の話ということなのかもしれない。

私は、愛とは、個体認知であると思っている。
他人から受け入れられることで感じられる、身体をふるわすような幸福感を味わったことがある人は、きっとその中毒になる。
また何度でも、それが欲しくなる。
なので、愛こそ至上と口にする。

それはそれでいい。
一方で、他人は他人だ。彼らに対してそれを強要し続けることはなかなかに酷だ。他人を前提にした幸せは、相手へそれを供給し続けろという命令に等しい。

真に自立するということは、孤独を受け入れるということだと最近は感じている。他人からの愛だけを求め続けて疲弊するなら、自分を受入れきってしまうことだ。
自己による自己肯定が、もっとも精神安定する近道であると思う。

JOKERはきっと、他者への恨みよりも何よりも、自らが望む何者にもなれなかった自分自身がただ哀しくて、仕方がなかったのではないだろうか。

JOKERはトリロジーの序章

ブルース・ウェインは、トリロジーの最終作・ライジングの中で、社会的な死を選択する。
バットマンとしての名も、ウェインの名も捨てる。
誰でもないブルースとして、アルフレッドとカフェで邂逅を果たす。

JOKERも、真に彼が望んだものが満たされたなら、その名を捨てて生きることもできたかもしれない。
あの番組の中で、マーレーにも観客にも包まれて、理解され、人々を笑わせ、ゴッサムを救う世紀のコメディアンになっていたかもしれない。

今回のJOKER the beginningとも言えるzero作品は、ここで終わりではないことをきちんと理解して鑑賞されると良いかと思う。

確かに、言いたいことも言えないこんな世の中は、毒の沼の様なものなのかもしれない。
児童虐待も、親が責任履行できないことも、学校や職場が助けてくれないことも、失業も、街のヤンキーに暴行されることもある。

目の前に憎悪の象徴が存在し続けたらそれを排除したくなる衝動も。
うまくいかないやるせなさを他人にぶつけたい憎悪も、わかる。
俯瞰できるのはそこから抜け出した人だけで、渦中の人間にはどんな言葉も無意味だ。
蠱毒のような生活からの脱却方法がわからなくて、人はヒーローの誕生を望む。

それでも、JOKERにだって、心配し、声をかけにきてくれる人がいた。
彼のことを手にかけることはなかった。
「僕に優しかったのは君だけだ」と声をかけた。

自分が、ただその一人の優しさだけで満足することは難しいのかもしれないが、誰かが想ってくれるその事実もあるというのが、救いの描写であったし、異常者などいないというメッセージにも見えた。

攻撃されたから攻撃する。
守るために仮面を被っている。
愛や優しさがわからない訳では、なくて…。
JOKERは、サイコになった人間の話ではないと私は思っている。

JOKERを観て、こんな社会は崩壊して当然だと、ゴッサムを現実社会に投影するのはなかなかに惜しい。
社会への批判を叫ぶのではなく、人に否定されるダークナイトですらあることを選んで、自分が変わること、大事なものを守ることを選んだブルースの物語を、ぜひ続けてご覧いただけたらと思う。

バットマン・トリロジーはこちらから▼



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