見出し画像

"食”を作る場の未来

■食を作る場に変化の兆し

食を議論に上げる際に切り離せない関係にあるのが料理だろう。現代社会では日常の料理もしくは調理はキッチンで行うことがほとんどだ。

料理を行う場は狩猟・採集が中心の旧石器時代に火を使うことを覚え、人類が食を調理する術を確保してから物理的に変化を遂げてきた。現在の姿で言うと明治以降の西欧化に伴い、日本家屋に代表される窯を中心とする土間空間がシステムキッチンに変化した。

その後のシステムキッチンは技術の発展により調理性能を向上してきたが、作る場そのものの変化というよりは品質のグレードアップによる家事効率の向上に留まっていた印象を受ける。 

p14-01のコピー-01

画像2

しかし昨今では作る場が多様なニーズに応えるために不動産ではなく移動型となり、またネット社会が見出した新たな可能性により作る場が物理的な変化ではなく、作り手と作る場の関係性を変化させ、専属のキッチンを持たなくても調理できる環境が整った。さらに今回のCOVID-19が飲食業界にこの流れを加速させた。これらは異常時における短期的な一過性なものではなく今後の我々の社会に常態化するかもしれない。

そこで今回はこれからの食を作る場所の現状を把握していき、食を作る場所の新たな可能性を考察していきたいと思う。

■脱固定化する食を作る場



・フードトラック

フードトラックそのものはアメリカで19世紀後半に発祥し、日本でも1990年代には活動があったと言われている。フェスやライブなどのイベント時や災害時の支援で目にすることはあるだろう。しかし都内のオフィス街では日常的に食生活に浸透してきている。

東京都福祉保健局が発表している「食品衛生関係事業報告」によると、東京都で営業許可を取得した調理可能な移動販売車の数は2004年から2014年の間で倍増し、2892台となっている。


都内のオフィス街のワーカーは限られたランチの時間で限られ予算内で食事をするため、不動産家賃の高値な都市部では大手チェーンやコンビニの食事を余儀なくされていた。フードトラックはそんな選択肢が限られてた毎日のオフィス街のランチの幅を広げた。オフィスビルの公開空地などに店を構えるため家賃の固定費が削られ個人の進出を容易にし、提供する料理に予算をかけれることで多様な選択肢を消費者に与えることを可能にした。また不動産会社にとっても空き時間を貸せるため土地活用にもメリットがある。

フードトラックの特徴は少ない初期投資で容易に参入できるだけでなく都市においてデリバリーと通常の飲食店の中間に位置し、作る場そのものが移動可能になることだろう。トラックが配置できるスペースがあれば収益や用途制限を考慮しなければ実質どこでも提供が可能ということになる。 

TLUNCH銀座_銀座6丁目スクエアビル_2829_xmgrye

・クラウドキッチン

通信技術の発展が我々の生活はこれまで以上の利便性をもたらしたが、食にも影響を及ぼしている。

一般的にも知られているのがUberEatsなどのデリバリーサービスだ。これまでも飲食店個別での食の配送は出前として存在したが、そのプラットフォームを構築可能にしたのはインターネットの発展が不可欠だった。これは消費者の選択の幅をひろげるだけでく料理を提供する側にも選択の幅を広げた。いわゆるクラウドキッチンがそれにあたる。

クラウドキッチン_アートボード 1

つまり飲食店を経営する側が専属のキッチンを所有せずに消費者に料理を提供できる仕組みだ。家賃や設備の維持費を削減できるだけでなく特定の地域にしか提供できないジレンマを解消してくれる。

作る場そのものを変革させたわけではなく作り手の専用となっていたプライベートな空間がオープンに共有する空間になるという関係性を構築したと言える。

■都市への影響


料理を作る場所の新な形態の共通点として固定の場を持たない、つまり大きなリスクを背負わないことが現代の潮流である。これは今回のCOVID-19の緊急時におけるリスクを体感したことで意識した人は多いはずだ。

我々の生活社会にこの潮流が浸透すれば都市や街には大きな可能性を与えるだろう。

これまで立地との取り分で料理の価格調整を行うディストピアの選択をしてきた飲食店は、切り離せなかった立地(正確にいうと家賃)を気にすることなく活動できる。個人が売りたいものを売りたい場所に提供することができる。

さらに組織で構える方式と異なるため多様な色合の店を街に向けることが可能になるだろう。効率や合理性に偏り、無機質な空間を任意の時間帯に展開するのではなく、都市や街の空いた空間を個別に彩れる。

しかし現状日本各地でこの考えが通用するとは思えないのが私たちの結論だ。どれだけ個人的な活動ができても飲食業である以上費用がゼロになることはないため利益率に目を向けなければならない。その際短時間の時間借りではその時間内でいかに集客を取るかが重要になる。ある程度利用客が見込める地域が鍵になるだろう。

これまで食を提供する側に傾けて話を進めてきたが、飲食店を経営する人だけでなく一般の生活者の食を作る場にも変化をもたらすことは可能だろう。クラウドキッチンのシステムは営利目的だけでなく大衆の利用にも活用できる。実際にはもう存在している。

普段から料理をする人に取っては専用のキッチンが便宜的だが、クラウドキッチンが一般に広まれば不定期に料理をする人にとっては一戸建てもしくは単身者のワンルームなどに接続されたキッチンは不要なものになる。これまでnldkと表記された間取りに変化をもたらすかもしれない。

ー 参考文献 ー
『食の歴史』:ジャック・アタリ / 林昌宏 (翻訳)   /  プレジデント社
『クルマ1台で起業する はじめよう!移動販売』/ 滝岡幸子 /  同文館出版
https://jp.techcrunch.com/2020/02/26/cloud-franchise-fundraising/
https://www.businessinsider.jp/post-103249

(文責:遠山)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?