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「売る」ことの出発点

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今回も、売り切れを頂けた。。
と、ふと安心して眠りにつくことができるのは決して毎度のことではない。

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私は家業を継いだ身でして
山西牧場という会社で豚を飼い、その肉や加工品を売っており
「豚野郎」と、巷ではそんなふうに呼ばれています。

普段販売している精肉やレトルトカレーに加えて
特別商品や加工品はベーコンを中心に、予約や不定期での販売をしています。
基本的に全てwebshopでの販売で、店舗はありません。
昨晩は今年初めて主力の加工品であるベーコンを販売し、おかげさまで売り切ることができました。

嗜好品とも思われる価格ながら、いつからかこうして発売後すぐに売り切れを頂くことも増えてきました。
出かけてから帰る車の中で、ここに至るきっかけを改めてじっくり思い出したので、そんな話を。

✳︎

今から1年半ほど前
私が「豚野郎」と名乗り、愛称として呼んでいただくようになる、しばらく前の事。

当時はTwitterもごく個人的に持っているくらいで特に発信もしておらず
SNSを仕事に使うなんて発想もありませんでした。

そんな中で加工品を作り始め、webshopを立ち上げてみたり、今の販売の原型を作っている最中のこと。

「マルシェに出てみませんか?」という募集を見つけ、思い切って名乗りを上げて出てみることにしました。

世を知らぬ井の中の蛙が持つ謎の自信とは恐ろしいもので
「こんな旨いもの持っていくんだ、これは売れるぞ」と、そう本気で信じていました。

そんな私ですから、勢い勇んでその日に向けて大量の発注、躊躇いなし。
ハム
ベーコン
ソーセージ
その他様々な種類を作って、

届いたら一つ一つにシールを貼って

沢山袋を持って、必要あらばと領収書も持って

銀行でお釣りの小銭をたんまり両替して

下手くそなポップや写真を用意して、イーゼルも忘れず買って

一人、やたらと重装備で搬入をしました。

そして迎えた当日、時間になると早速友人が買いにきてくれて
もう、「今日、早めに帰っちゃまずいよね」なんて心の中で思ったのです。

こう書けば流れはわかりやすいものですが
まさに「そうは問屋が卸さない」わけで、、

試食ができない、という前提条件のマルシェのせいか
集客が悪かったのか、私の売り口上のせいか、はたまた商品の問題か

その後ほぼ売れることもなく、刻々と時間は過ぎていくのでした。

残り、1時間を切って、3つも4つもこさえた大きな段ボールは1つも底を見ることなく、ただの置物となり

焦り切って、少しやけになった私は「投げ売り」という禁じ手に手を染めました。

そんな手を使って、なんとか1つの段ボールの底を見て終了。

そんな初めての物販出店でした。

物販経験者にはわかるかもしれませんが
撤収の、在庫が入った段ボールって、やけに、ずっしりと重い。
行きと帰りで明らかに重さが違う。

関係者に挨拶をして、「割といい感じだった」風を装って
でも荷物は一つ一つ、車のトランクに投げ込むようにして、
汗だくで逃げるように乗り込んだ帰りの車。

何を聴いて帰ったかも覚えてないけど、悲しくて悲しくて
頭の中は「この在庫、どうしよう」という思いでいっぱいで
一人で決め込んで勇んで準備していた自分を思い返せば
滑稽で滑稽でたまらなかった。

おかしくて笑ってるんだか、泣いてるんだかわからない顔で帰路について、
ハッと気付いて途中で車を停めて
「ごめんなさい、全然売れなかった、在庫がいっぱいあります」と会社に報告をしました。情けない声だったんだろうなぁ。

翌日になって
保存料を使ってないため、2週間ほどしかない賞味期限だから急いで周囲に知恵を借りて、納品先の売店にセットを作って安く仕上げて売っていただくことに。

そうしてなんとか捌いて、自分たちでも沢山食べて
赤だか黒だか見当もつかない形で、終わりました。(正しく言います、赤です)

✳︎

その日、運転席で浴びるように感じた
多くの人に届けられなかった情けなさとか
値下げしてしまった屈辱感とか申し訳なさとか
何もわかってなかった己の愚かさとか
鬱屈して飛び火した世の中への不満とか
買ってくださった人がいるのに、自分がこんな気持ちでいる悔しさとか

そういった思いは、
今でも私にとって何かを「売る」という行為のすぐ裏側に立って肩を叩きます。

「絶対にもう、あんな価格で売りたくない」
「買ってくれた人に背を向けたくない」
「ちゃんと売り切りたい」
そして「美味しい自分たちの商品を多くの人に知って欲しい、愛して欲しい」

という想いが、今にそのまま繋がっているんだなと思い出しました。

今だから話せるけど
そこからすぐに売れるわけもなく、もっとひどい日もあって

1日駅前に立って1つしか商品が売れず、売り上げが出店料で消えた
とか、そんなこともありました。

何度もやってるんです、馬鹿なんでしょうね。。
逆に、よく懲りずに出ようと思ったなと少し感心します。

恨んだのは自分で、仕返しをしたい相手もいません、
でも、あの日のような思いはもう2度としたくない

そんな思いで、これまで色んなものを作っては
あーでもない、こーでもないと言いながら
営業したり、本を呼んだり、勉強会に行ったり
Twitterやら各種SNSに手を染めて
まさにあの手この手で「売る」ということを学びました。

こんなふうに書いておいて、今がよほど売れているとかではなく
全く道半ばです。

だから、今もこの先も
私はみっともなかろうと、このくらいならすぐ売れるのにといわれようと
売るとなったらどうやったって売りたいし
何度も自分の呟きを自分でリツイートして
自分の同じ呟きに引用で語りかけて
とっておいた昔の呟きを引っ張り出して
売ります

売ります、とかこんだけ言っといてなんだけど
実は自発的な「売る」ってできないんだよなぁ、
本当は買っていただくことしかできない。
もしやこれ真理では?

やんややんや「いつ発売!こんな商品です!」とか言ってると
きっと「うるさいな」と思う方も多いかな、とすごく申し訳なくなるんですが
そんなに人は自分を見てくれるわけじゃないから、やらないといけない。

売れたら終わりでもない。

安くない、試食もない、我々の商品を買ってくださった体験は
買っても、食べても、美味しいでも、終わらせたくない。

できる限り、追って探して、拾って、御礼を伝えて、意見はもらって

「また、買ってみようかな」と思って頂けるように努めます。

今、買って頂くことができるのはそういうことの積み重ねだし
興味を持ってショップを覗いたり初めて買ってくださるのは
食べてくださった人が「美味しい」と素直な声を書いて伝えてくださるから
そして応援してくださるから

別に関係なくたって、興味を持ってもらえたら嬉しいので、返信します。
(内容にもよるけど)
「反応まめやん」と言って頂くことがありますが、できる限りは続けたいと思ってます。

絶対にあの日のような思いはしたくないので

どうやったら売るにつながるかを学ぶのも
都内に足を運んだり、自分でイベントを開いたり、人見知りのくせに人の群れに飛び込むのも

全てが少し気のふれた執念かもしれません。

必ずや、人目に触れ、興味を持ってもらい、その親指を動かして、食べていただいて、その味を知って欲しいのです。

自分なりの美学に基づいた振る舞いは守った上であらゆる手を尽くして、これからも品を作り送り届けていく

作ったからこその熱を一番強く届けられるのは自分しかいないから

今も、シール貼り、梱包、伝票発行、受発注、発送等は中心でやっています。
(実情、自分くらいしかいないからなんですが)
地味で地味で、悲しくなるほどの地味な作業にここまで気持ちを持ってやれるのは

あの日から始まって、買ってもらえる今があるから、
そのことがたまらなく嬉しいのです。

正直に言えば「あー、、ちょっと、面倒だな、」と思うことも、私も人だから勿論あるのですが
並んだ伝票を見て、どんなふうに届くかを思うと、並んだ在庫の一つ一つが、誰か一人ひとりに届く姿が頭に浮かんできて、不思議と手が動きます。

それって、私がもがく中で、感想を伺ったり、直接会ったりしてきたからこそ
少し高い解像度で想像できるんじゃないかなぁと思いました。

小さいことが気になった時は「これが自分や大切な人に届くとしたら」って考えるようにしています。

この時代
ものが作られて、人に届くまでの間には沢山の乗り換えがあって
何を包んでて誰に届くか気にすることもイメージもできないくらい、色んな道を辿っていくからこそ

素材を作って、それを「こんな商品を作ろう」って考えて
自分が見たり働いた工場で加工してもらって、
それを自分たちの手で届けられるってのはすごく、すごく面白いし感動する

今でも「売ります!」と声を掛けてから在庫を投入するボタンを押すとき、毎回ものすごく不安になるし指が震えるけど、そんな真剣勝負だから注文いただけると人一倍嬉しい。

喜んでもらえたらもっと嬉しい。

2度目のご注文頂けた時には「ああ、よかった」と胸を撫で下ろす。

売り切れて
作ったものが全て、余すことなく誰かの元に届くんだと
無駄にならずにすむんだと
心が少し弾む。

そして、一つ一つ発送して
次回に向けてまた考える。

常勝なんてことはないし
「もう大丈夫」なんてことは絶対ないから
ヒリヒリと一生懸命やっていきたいな、と思うのでした。

今、知って頂けたり、買って頂いたり、「美味しい!」と伝えて頂けることに
感謝尽きません。

いつも有難うございます!


ちょっと、いいコーヒーが好きです