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神経筋電気刺激療法:EMS

みなさんはEMSをお使いでしょうか?

今回はICUにおけるEMSについてまとめました!


EMSに関しては本邦での敗血症ガイドラインや早期リハビリテーションガイドラインでは標準治療として積極的に推奨してない(1, 2)。

しかし、その根拠としては十分なエビデンスが不足しているためであり、さらなるエビデンスの蓄積が必要と結論付けられている。

ガイドライン策定後にも近年様々な研究成果が報告されている。

ICUに入室する重症患者は入室後から筋萎縮が進行し,1週間で13.2%–20.7%の筋萎縮をきたす(3)。EMSの筋萎縮予防効果はどうか?

筋肉量の評価として最も信頼性が高く、ゴールドスタンダードとして用いられるのはCT検査である。中村らはベルト電極式骨格筋電気刺激法(G-TES:ホーマーイオン研究所)を急性期の1日目から10日目まで用いて、骨格筋の減少量の違いをCTにてSynapse Vincent(富士フィルム)のソフトを用いて立体的に評価した。介入群と対照群での筋萎縮は10.4%対17.7%(p < 0.0001)と有意差があったことを報告しており、EMSによる筋萎縮予防効果は確かなものであると考えられる(4)。

ベルトタイプ GTES

重症患者では実際に積極的なリハビリが困難な患者などを対象とした研究でEMSの有効性が報告されている。

例えば意識障害のある患者では積極的リハビリが困難なことが多く、実際にGCSが低い患者では離床開始が遅延する(0.7 ± 0.2日 vs. 0.2 ± 0.1日,p = 0.008)(5)。頭部外傷による意識障害がある患者を対象としたRCTではEMSを用いなかった非介入群において入室10日目に前脛骨筋筋厚が14%、大腿直筋筋厚が21%と有意に萎縮した(6)。筋機能についてはEMSによる介入で神経筋障害が減少し(介入群vs. 対照群:0% vs. 47%, p < 0.0001)、下肢進展力は改善した(介入群vs. 対照群:2.34 vs. -1.55 kg/f、p < 0.01)。


別の離床の阻害因子として長期人工呼吸管理がある。Chenらは21日以上の長期人工呼吸管理を要する患者を対象としてEMSを10日間用いるRCTを行った(7)。介入群ではEMSにより10日目のMRCスコアが増加し(2 [1–7] vs. 2 [1–3.5],p = 0.034),非介入群で下肢周囲長が低下した(47.5 cm vs. 44.6 cm,p = 0.004)。EMSのメタアナリシスでも人工呼吸管理を要する患者を対象としたEMSは人工呼吸期間を2.7日短縮することが報告されている(8)。


また別の研究ではオピオイドを用いる患者、筋萎縮が著明な患者においてEMSの効果的であったと報告している(9)。この研究では同一患者において体の片側をEMSで刺激する側と刺激しない側にわけて比較した。刺激側では大腿四頭筋筋厚が6%しか萎縮しなかったのに対して、非刺激側では12%萎縮した。この研究の解析では筋萎縮予防効果が強かったのはオピオイドを使用している患者(β= 10.9、p = 0.02)、筋厚減少が著明であった患者(β= 16.4、p = 0.01)であった。つまり、オピオイドを使用することは人工呼吸患者で多く、筋厚の減少が激しい患者は重症で炎症が強く離床が制限される患者であるため、重症な人工呼吸患者でEMSが有効であることを間接的に示しているとも考えられる。

EMSの使用部位についてはどうか?

下肢のみでなく、上肢へもEMSを併用することが効果的であることが明らかとなっている。ICU入室患者は下肢のみでなく上肢にも筋萎縮や機能障害をきたすことが分かっている(10)。

2012年にRodriguezらは人工呼吸管理を要する敗血症患者16人においてEMS介入を行った。同一患者において1日30分×2の17日間の介入にて刺激側で上下肢の筋力が増強し(上肢:p = 0.005、下肢:p = 0.034)、非刺激側で筋肉が萎縮した(11)。しかし、上肢へのEMSを異なる患者でRCTを行った研究がなかった。

そこで2020年に私たちは多数の電極を搭載するため複数の筋肉への刺激が可能であるミナト医科学株式会社のソリウス(図1A)を用いて両上下肢へのEMSに関するRCTを近年報告した(12)。この研究では離床が制限されるICU入室1日目から5日目に1日30分の介入を行った。介入により下肢のみでなく上肢の筋萎縮の予防も可能であった(上腕二頭筋面積 −2.7% vs. −10.0%,p = 0.03;大腿直筋面積 −1.7% vs. −10.4%,p = 0.04)。また介入の結果、入院期間も短縮した(23日 vs. 40日 ,p = 0.04)。入院期間が短縮した理由として下肢のみでなく上肢を含めたリハビリが重要であることが分かる。重症患者において上肢はベッド上での活動やコミュニケーションに重要な役割を果たし、この上肢の筋萎縮を予防して機能を維持する必要がある(13)。興味深いことにこのRCTでEMSが筋崩壊を抑制することを血中アミノ酸分析で報告している(3日目の分岐鎖アミノ酸変化量:+40.5% vs. +71.5%,p = 0.04)。

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しかし、この研究ではEMSを用いても浮腫や肥満のために電気刺激がとおらないケースやEMSの痛みにより介入から除外される患者もいた。GrunowらはICU入室時のSOFAスコアが高い患者においてEMSによる筋収縮の反応が悪かったと報告している(14)。このようにEMSが適応でない患者も理解する必要がある。


EMSの使用時間に関しては1日30分×2回使用する報告が多い(15)。2015年のエキスパートオピニオンでも使用時間は60分を推奨している(16)。別の研究では1日50分×3回用いている研究もある(17)。実際の臨床では患者の治療や看護ケアなどを考慮すると60分間でもEMSを行うことは容易ではないが、適切な使用時間用いるのが望ましい。

つまりEMSは全ての患者に一概に使用が必要なものではなく、対象を選定して、使用方法や使用時間なども考えて用いる必要がある。

EMSが患者さんを救うかは皆さんの使用方法次第だと思います!

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参考文献
1. 日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会. 集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~. 日本集中治療医学会雑誌. 2017;24(2):255-303.
2. 江⽊ 盛, ⼩倉 裕, ⽮⽥部 智, 安宅 晃, 井上 茂, 射場 敏, et al. 日本版敗血症診療ガイドライン2020. 日本集中治療医学会雑誌. 2020;advpub.
3. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, Iuchi M, Onodera M, Nishimura M. Upper and lower limb muscle atrophy in critically ill patients: an observational ultrasonography study. Intensive care medicine. 2018;44(2):263-4.
4. Nakamura K, Kihata A, Naraba H, Kanda N, Takahashi Y, Sonoo T, et al. Efficacy of belt electrode skeletal muscle electrical stimulation on reducing the rate of muscle volume loss in critically ill patients: A randomized controlled trial. Journal of rehabilitation medicine. 2019;51(9):705-11.
5. Schaller SJ, Scheffenbichler FT, Bose S, Mazwi N, Deng H, Krebs F, et al. Influence of the initial level of consciousness on early, goal-directed mobilization: a post hoc analysis. Intensive care medicine. 2019;45(2):201-10.
6. Silva PE, de Cássia Marqueti R, Livino-de-Carvalho K, de Araujo AET, Castro J, da Silva VM, et al. Neuromuscular electrical stimulation in critically ill traumatic brain injury patients attenuates muscle atrophy, neurophysiological disorders, and weakness: a randomized controlled trial. Journal of intensive care. 2019;7:59.
7. Chen YH, Hsiao HF, Li LF, Chen NH, Huang CC. Effects of electrical muscle stimulation in subjects undergoing prolonged mechanical ventilation. Respiratory care. 2019;64(3):262-71.
8. Gutiérrez-Arias RE, Zapata-Quiroz CC, Prenafeta-Pedemonte BO, Nasar-Lillo NA, Gallardo-Zamorano DI. Effect of Neuromuscular Electrical Stimulation on the Duration of Mechanical Ventilation. Respiratory care. 2021;66(4):679-85.
9. Segers J, Vanhorebeek I, Langer D, Charususin N, Wei W, Frickx B, et al. Early neuromuscular electrical stimulation reduces the loss of muscle mass in critically ill patients - A within subject randomized controlled trial. Journal of critical care. 2021;62:65-71.
10. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, Akimoto Y, Nakano Y, Nishimura M. Upper limb muscle atrophy associated with in-hospital mortality and physical function impairments in mechanically ventilated critically ill adults: a two-center prospective observational study. Journal of Intensive Care. 2020;8(1):87.
11. Rodriguez PO, Setten M, Maskin LP, Bonelli I, Vidomlansky SR, Attie S, et al. Muscle weakness in septic patients requiring mechanical ventilation: Protective effect of transcutaneous neuromuscular electrical stimulation. Journal of critical care. 2012;27(3):319.e1-.e8.
12. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, Yamamoto T, Ueno Y, Nakataki E, et al. Effect of electrical muscle stimulation on upper and lower limb muscles in critically ill patients: a two-center randomized controlled trial. Critical care medicine. 2020.
13. Kawahara Y, Nakanishi N, Nomura K, Oto J. Upper limb movements and the risk of unplanned device removal in mechanically ventilated patients. Acute Medicine & Surgery. 2020;7(1):e572.
14. Grunow JJ, Goll M, Carbon NM, Liebl ME, Weber-Carstens S, Wollersheim T. Differential contractile response of critically ill patients to neuromuscular electrical stimulation. Critical Care. 2019;23(1):308.
15. Burgess LC, Venugopalan L, Badger J, Street T, Alon G, Jarvis JC, et al. Effect of neuromuscular electrical stimulation on the recovery of people with COVID-19 admitted to the intensive care unit: A narrative review. Journal of rehabilitation medicine. 2021;53(3):jrm00164.
16. Sommers J, Engelbert RH, Dettling-Ihnenfeldt D, Gosselink R, Spronk PE, Nollet F, et al. Physiotherapy in the intensive care unit: an evidence-based, expert driven, practical statement and rehabilitation recommendations. Clinical rehabilitation. 2015;29(11):1051-63.
17. Nakamura K, Nakano H, Naraba H, Mochizuki M, Hashimoto H. Early rehabilitation with dedicated use of belt-type electrical muscle stimulation for severe COVID-19 patients. Critical Care. 2020;24(1):1-2.


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