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SSCG 2021でのPICSフォローについて

2021年11月に米国集中治療医学会から敗血症の新しいガイドラインが報告されました。これをSSCG2021(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021)といいます。

今回のガイドラインではPost Intensive Care Syndrome (PICS:集中治療後症候群)に関して取り上げられました。ちなみにSSCG2016ではPICSの項目はありませんでした。

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PICSに関してどのようなことが推奨されているのでしょうか。

Q91 成人の敗血症や敗血症性ショックの生存患者に対し、退院後も身体的、認知的、精神的な問題のアセスメントやフォローアップを行うことを推奨する(推奨付けはないが強い推奨)。

敗血症罹患後は約3人に1人が長期的な身体的、認知的、精神的機能障害を経験するともいわれております(1)。病気が治って退院しても医療は完結しておりません。患者さんが社会復帰するまで、退院後のフォローは欠かせないものになってきております。フォローは強い推奨です!

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Q88、Q89 新たな後遺症を負った成人の敗血症に対し、長期的なフォローを含む退院後の方針を計画することを推奨する(推奨付けはないが強い推奨)。しかし、そのフォローを早期に行うだけの十分なエビデンスはない。

敗血症生存患者は退院しても90日以内に約40%の患者が再入院になるともいわれており、医療コストの増加とも関係しています(2)。そのため退院後の計画が重要です。しかし、早期のフォロー(7日から14日以内)が敗血症生存患者さんの予後を改善させるか調べた研究は1つしかありません。その1つの研究では退院2日以内に介入することで、30日以内の再入院を7%減らしました。しかし、現時点では早期のフォローを行っている研究が1つしかないため、早期フォローの十分なエビデンスはないと結論付けられております(3)。

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Q93 成人の敗血症や敗血症性ショックの生存者に対し、集中治療後のフォローアッププログラムが利用可能なら紹介することを提案する。(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

PICS予防のための様々なフォローアッププログラムがあります。施設によりその方法は異なります。そのようなフォローが重要かどうか、無作為化比較試験も行われていますが、まだ十分なエビデンスがないのが現状です。コクランのシメタアナリシスでも退院後のフォローが長期的な身体、認知、精神機能を改善させるかの十分なエビデンスはないと結論付けられております(4)。しかし、退院後のフォローが重要と提案されております。それは現在進行中の無作為化比較試験もあり、その結果で今後の推奨度がかわってくる可能性が高いからです。IMPACTSトライアル(Improving Morbidity during Post Acute Care Transitions for Sepsis)(5)やIMPOSEトライアル(IMProving Outcomes after Sepsis)(6)などが進行中です。

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Q94 人工呼吸管理が48時間を超える、もしくはICU滞在が72時間を超える成人の敗血症や敗血症性ショックの回復者において、退院後のリハビリテーションプログラムを紹介することを提案する。(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

多くの研究では人工呼吸管理を要した患者や長期入室となった患者で退院後のリハビリテーションプログラムの有効性を報告しております。ですので、人工呼吸管理が48時間を超える、もしくはICU滞在が72時間を超える成人で退院後のリハビリテーションプログラムが推奨されております。退院後のリハビリがQOLを改善させるようです(7)。しかし、退院後のリハビリのタイミング、量や強さ、介入期間など今後の研究が必要です。

どのようにすればPICSが減るのか、1人でも多くの患者さんが社会復帰できるのか、微力ながら情報発信を続けていきます。

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参考文献
1. Yende S, Austin S, Rhodes A, Finfer S, Opal S, Thompson T, et al. Long-Term Quality of Life Among Survivors of Severe Sepsis: Analyses of Two International Trials. Critical care medicine. 2016;44(8):1461-7.
2. Mayr FB, Talisa VB, Balakumar V, Chang CH, Fine M, Yende S. Proportion and Cost of Unplanned 30-Day Readmissions After Sepsis Compared With Other Medical Conditions. Jama. 2017;317(5):530-1.
3. Deb P, Murtaugh CM, Bowles KH, Mikkelsen ME, Khajavi HN, Moore S, et al. Does Early Follow-Up Improve the Outcomes of Sepsis Survivors Discharged to Home Health Care? Medical care. 2019;57(8):633-40.
4. Schofield-Robinson OJ, Lewis SR, Smith AF, McPeake J, Alderson P. Follow-up services for improving long-term outcomes in intensive care unit (ICU) survivors. The Cochrane database of systematic reviews. 2018;11(11):Cd012701.
5. Kowalkowski M, Chou S-H, McWilliams A, Lashley C, Murphy S, Rossman W, et al. Structured, proactive care coordination versus usual care for Improving Morbidity during Post-Acute Care Transitions for Sepsis (IMPACTS): a pragmatic, randomized controlled trial. Trials. 2019;20(1):660.
6. Paratz JD, Kenardy J, Mitchell G, Comans T, Coyer F, Thomas P, et al. IMPOSE (IMProving Outcomes after Sepsis)-the effect of a multidisciplinary follow-up service on health-related quality of life in patients postsepsis syndromes-a double-blinded randomised controlled trial: protocol. BMJ open. 2014;4(5):e004966.
7. Prescott HC, Angus DC. Enhancing Recovery From Sepsis: A Review. JAMA. 2018;319(1):62-75.


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