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全日本柔術選手権の録画視聴に4,000円かかる件

JBJJF(日本ブラジリアン柔術連盟)の動画視聴の料金変更が話題になりました。その件についてXに投稿したら、思った以上に反響がありちょっと困惑しています😵

■経緯[Factベース]
前提:これまでJBJJFの試合視聴はYoutubeのメンバーシップ機能で配信されている。シルバー会員(月額1,400円)で視聴できる。
原因:10/8,9開催の全日本柔術選手権の試合動画(アーカイブ)はゴールド会員(月額4,000円)以上でないと見られなくなった。
影響:この変更について不満の声があった。その中にはFlograppling(月額20$)やAbema(月額960円)のような格闘技を配信するサービスとの比較で「高い」という声が出た。

追加でnote投稿しようと思った動機

誤字脱字がひどく書き直そうかなと思ったら・・・たくさんリプや引用がついたので、noteで書き足すことにしました。

厳密にはこのX投稿はこの問題について全くカバーできておらず、「大手サービスと比較して高い・安いを論ずるのは野暮だよ」という点のみへの言及です。

ロジックの飛躍も多々あるので、自分にツッコミを入れつつ、またいただいた引用にお答えする形で進めていきます。

自己紹介:延藤素康
仕事:教育業界を中心にメディア運営、広告事業、集客を本業にしています。前職で動画サービスのマーケ責任者を担当。
柔術:2022年から始めて、現在青帯です。今年は6大会くらい出ています。試合はセルフ録画派です。

あらためてツイートの振り返り

ポイントをまとめます。

1.値付けって難しい

JBJJFが動画配信を採算事業(利潤を出す事業)としているのかはわからない。⇒個人的には、市場、コスト、動画サービスの運営の大変さを知っているので採算事業としてアクセルを踏むことはないと考えます。(推定)

2.顧客は誰なのか

ここ大事です。時間がなくて投稿ではパスしました。このあと書きます。

3.VODサービスと比べてはいけない

X投稿に書いた通りです。「動画配信」と言ってもジャンルも規模が違えば全くの別物です。一般的に皆さんが名前を知っているようなサービス(Abema,Netflixなど)って、地獄から這い上がってきた強者ばかりなのです。

いまだに赤字で他の事業、外部から資金を注入してもらいつつ運営できているだけの企業が多い(俗に「ゾンビ経営」)。並列で語ってはいけません。

4.実は高くない?

視聴者が払う4,000円のうち、半分しかJBJJFに届きません。

上流を抑えたApple,Googleが収納します。(つまり4,000円の半分はインフラ代で消える)

5.自社サービスで動画を展開すると、とんでもない金額になる。

詳細はこの後書きます。

上記を踏まえた持論

①4,000円は実は高いとは言えないかも🤔
②JBJJFが動画配信を事業化しようとすると、①会場での個人撮影も禁止される、②エントリー費用の高騰につながる😵

という内容でした。

最悪のシナリオ・・・「動画の赤字を補填するために不採算の地方大会とかを開催しません」なんてことにもなりかねないです。JBJJFには間違っても「動画で稼ぐぜ!」なんて思わないで欲しいです笑

自分へのツッコミ:大手VOD勢と戦わなくてもいい

「動画サービスをがんばる⇒大手VODを追従して大幅展開しないといけない」とは、ならないですね。すみません。

要件定義をして、視聴者が欲しい機能だけ実装すれば数千万円はかからないです。

とはいえ、動画配信って構築がめっちゃ大変で、完成後も運用にお金がかかります。

  • 安全なログイン

  • 安定した配信

  • コンテンツの盗用の防止

  • マルチログイン(アカウント貸し)の予防

こういった基本的な仕組みを整えるだけでもすごく大変で。

これを実装しようとしたら、フロント(皆さんが触る画面)とバック(サーバー、仕組み、セキュリティ)を固めて、MVP(最低限の機能でリリース)しても500万円くらいでしょうか。

ざっくりイメージですが、「BJJ Fanaticsの最低限の要件のみ丸々パクって」という仕様。レビューはなくていいとしても、コンテンツ検索などないので結構不便です。

Youtubeメンバーシップは合っているのか?

他人の経営について口出しできる立場ではないのですが、ウェブや会員制サービスをやっている人からすると、「なんでサブスク?」という疑問はあります。

同じ疑問を持たれている方もいらっしゃいました。

サブスク定額制コンテンツの問題点

毎月課金される⇒毎月コンテンツが上げないとユーザーの「期待度」が落ちる。

まあ期待度が落ちても全体から見て、価格とサービスが釣り合っていれば、なんとかなります。

でも、多くのユーザーは目先の高低しか見ないので運営としては難しいし、不平不満を誘発しやすい仕組みかもしれません。

さらに動画視聴だけで言えば、サブスクではズルもできるのです。

たとえば登録初月に全動画をダウンロードして、即日退会⇒個人PCで視聴する。個人的に見る分には著作権違反になりません。もし規約で縛っても法的問題には持ち込むのが極めて難しい。(もし持ち込んでも数千円のために訴訟はやらない)

全日本柔術選手権レベルの試合なんて年に数回です。「毎月ユーザーの期待に応えるコンテンツを出さないといけない」というサブスクの使命と試合視聴というのは相性が悪いです。

Webサービスをお得に使う方法

元投稿に書いた通り、ユーザーの払うお金の多くは、JBJJFではなく、インフラ会社(iOS,Youtube)が持っていきます

一部だけですが、ユーザーがすり抜ける方法はあります。

Youtubeメンバーシップに3割やすく入る方法

↓こんな方法

今回の件についても、情報提供している方はいました。

さらに高橋さんからも。

馬場さんのツイートにある通り、他のサービスでも同じことができます。

たとえば青木真也さんのVoicyの有料配信もブラウザ経由で買えば、3割引で買えます。(※青木さんに入る金額は変わりません。多分)

  • note

noteではそもそもアプリから記事を購入する仕組みを制限しています。ブラウザで買えばAppleには支払いは発生しません。でも、購入後はアプリで購読可能です。

  • Amazon(電子書籍)

Amazonですら電子書籍の購入はアプリではなく、ブラウザから買わせる仕組みにしています。

これはシステムの管理の問題でしょう。僕は元投稿で「良心」と書きましたが、単にコストの問題で放置しているだけかもしれません。「ブラウザ版で買ったらアプリ版では見れない」という仕組みを作ること自体は可能なので。

アーカイブとリアルタイムについて

これは杉本孝さんの②はまさにその通りだと思いました。僕なりの意見を後述します。

実はリアルタイム配信(有料)を渇望していた!

全日本柔術選手権の当日、僕は朝からPCを構えて、ずっと『試合"表"の実況中継』をしてました笑

萩野さん、下前さん、楢山さん、既知の方はもちろん、面識はないけどイゴール・タナベさん、須藤拓真さんvs関澤翔さん、茶帯フェザー(多数)の試合はどうなっているのか気になってしかたなかった。仕事が全く手につきませんでした。

もし全日本柔術選手権に生配信があれば、倍の8,000円でも視聴していました。

では、そんな僕でも4,000円で録画を買うか? というと・・・うーむ買うかはわかりません。他にも見たい大会があったら見るかも、という程度で。

これは全然不思議なことはなくて、そもそもアーカイブとリアルタイムでは提供価値はもちろん「顧客」も異なるのです。

試合の顧客は誰か? どこにお金を払うか?

前述の通り、僕は元投稿において「顧客」の部分をスルーしたので、以下に僕なりの答えを書きます。

マーケティングについて語るには絶対に外せない言葉があります。

真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。
ーーP.F.ドラッカー

『マネジメント』第1章の2

ここでいう顧客とは「商品を買う人」ではなく、「価値を感じて対価を払う
人」とします(この定義で以下を進めます)。

杉本さんの引用RTにもその疑問について投げかけられていました。「誰の為か?」というのはまさに「顧客は誰なのか?」という意味ですね。

小結論

「①この試合を②見たい」という限定的な欲求で視聴者はお金を払います。

これはプロアマでも変わりません。特定の人(推しの選手、仲間、先生、子供)の試合を見たくて、入場チケットを買います。動画配信チケットも同じです。

そもそもリアルタイムで結果を追うことに価値があるので(スポーツにせよ、事件報道にせよ)、アーカイブは副産物でしかありません。

あるいは編集やパッケージ装飾で付加価値を足し、アーカイブ(録画)なりの価値を出すことはできますが、リアルタイムのワクワクという「顧客体験」は買えません

ファンや視聴者は「大会」全体に価値を感じてお金を払っているわけではないのです。

たとえば先日のRIZIN LANDMARK6に僕が通うジム(所プラス)の会長・所英男さんが出場しました。

チケットは13試合で5,000円でした。もし「お好きな3試合3,000円」という配信プランがあったら、それを選んでいたかもしれません。

※とはいえ、「せっかく払ったから全部みるか」という動機で僕みたいなニワカでも佐藤将光選手を知るというラッキーもあるのが個人戦の大会の魅力です。

アーカイブの顧客とは?

逆に、アーカイブ(録画)を見たい人は誰なんだろう? と気になりますね。パッと思いつく限りだとこれくらいです。

  • ①試合を分析したい人(一時停止、戻ったりして何度も見たいという欲)

  • ②子供の試合(思い出に残したい)

意外と少ないです。

①は明らかに競技者か指導者ですね。おそらくジムの仲間をリアル配信では見たいという人はいても、わざわざ仲間の試合をアーカイブを買おうとはならない。逆に自分の子ならなるでしょう。アーカイブの「顧客」って極めて限定的だと思います。

もし子供の親をターゲットにするなら、「キッズ柔術のみ動画1本1万円(編集付き)」みたいなこともできてしまう。僕の娘が柔術やってたら買いますから笑

最後は冗談で濁してしまいましたが、以上の観点をもろもろ検討して、価値があると思った人は買えばいいです。もし買う人がいなければ価格またはサービス内容を調整するかもしれませんし、あるいは赤字にしかならないからやめようとなるかもしれません。

今回思い浮かんだこと

柔術の試合の顧客は誰か?

今回の4,000円メンバーシップの議論については、「欲しい人は買え。嫌なら買うな」で済ませるにはもったいない内容だと思いました。

  • 「柔術の試合の顧客とは誰か?」

  • マス向けではない競技がコンテンツを売るには何を考慮しなくてはならないか」

こういった疑問を検討する試金石になると思います。簡単な話ではないです。

僕は柔術をもっと広く普及させようと企んでいるので、今後のBJJ LABのマーケティングについて貴重なヒントとなりました。

以上です。

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【補足】このスキームは検討の余地ありですね

管理コストから「パスの流出はやむなし」と割り切れば、うまくやればできると思いました! 損害もないでしょうし。これもちゃんと説明しようと思うと、技術的な話も入るので割愛させてもらいます🙇 ご意見ありがとうございます。


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そもそも今回の話の震源地って、萩原選手のこの投稿だったのか。さっき知りました💣

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