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筆歴

1992年に「幻想」という原稿用紙6枚の短篇を書いた。初めての創作だ。17歳だと思う。中上健次の死のショックを受けて小説を書き始めたと思っていたら、どうやら健次忌前らしい。とんだ物語化でおこがましい。
数えると始まりの17歳から現在の48歳までのおよそ30年間で37篇の短篇があった。2015年と2016年に13篇を2冊の同人誌にまとめた。そして今秋の3冊目の短篇集『不都合な箇所は削除せよ』で7篇掲載予定だ。来夏10篇程まとめて4冊目を刊行したい。合わせると30篇ぐらいになる。
いま編集中の短篇集に収録の一篇は、ある方から「アウトサイダーリテラチャーっぽい。整合性がない。豪快。何かある。」と講評を受けた。内容は病的でセンシティブなものだろう。その点の考慮は総題に込めたつもりだ。
また別のある方には他の収録作について、「ひとつひとつの文章を丁寧に表記していることや、意表を突く時間移動のなかでもストーリーがちゃんと伝わっていること、それらの文体と趣向に独自性を試そうとされていることなど、作品に向き合う書き手の意識や姿勢が清々しく感じられたのは評価したいポイントです。」という言葉をいただいた。
太宰治「水仙」(『きりぎりす』新潮文庫)で「二十世紀には、芸術家も天才もないんです」「僕には信じている一事があるのだ。誰かれに、わかってもらわなくてもいいのだ。いやなら来るな。」(314頁)とある。
つねづね人との関係が大事だと思っている。とはいえ創作は他者の理解が及ばない領域かもしれない。
商業出版ではない同人出版でこつこつ短篇を書いてきた。新人賞で一次予選通過は二回(2004年・2015年)、主宰の2019年と2020年の短篇集で2021年に小さな文学賞をいただいた。
なにも誇れるものはない半生だった。ただ傍らにいつも本があった。これからもそうであるように。志の途中で亡くなった幾人かの友人たちに思いを馳せて。文学は時の外にある「励まし」だから。

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