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侠客鬼瓦興業 第11話 ゴッツ追島

鬼瓦興業の寮生活初日、僕は突然現れたマウンテンゴリラによって、生命の危機にさらされていた。

あまりの恐怖に布団の中でじっと息をころし、カタカタと震えている僕のことを、マウンテンゴリラは不振そうにながめていたが、やがてその巨大な手で、僕の布団をむんずとつかみ、一気にガバットはぎとった。

「ひえー助けてーーーーーー!」

僕は大声で悲鳴をあげながら、部屋のすみへまるで鼠のように逃げ込んだ。

そこへ、大声を聞きつけた銀二さんと鉄が眠そうな目をこすりながら入ってきた。

「何だ吉宗でかい声出して?」

銀二さんと鉄は目の前にゴリラがいるにもかかわらず、平然と僕に話しかけていた。

僕は恐怖で手をばたばたさせながら、

「なんでそんな平然としてるんですか!ゴリラ、ゴリラ…」

震えながら、目の前のマウンテンゴリラを指さした。

「ゴリラって、ば、馬鹿おまえ…」

銀二さんはゴリラの後ろで、慌てた顔で手を横に大きく振っていた。

「え?だってゴリラが!」

僕は一瞬かたまりながら目の前のゴリラを指さした、するとそのゴリラはぐいっと僕の前にその恐ろしい顔を近ずけたかと思うと、突然人間の言葉を発してきた

「誰がゴリラだこの野郎!」

「えー!ゴリラがしゃべったー!!」

僕は驚きに言葉をうしない、その場に腰を抜かしてしまった。

「バカ!お前その人はゴリラじゃなくて人間だー!」

「え!?」

「だから、その人が追島の兄貴、オイさんなんだー!」

銀二さんの一言で僕はその場で身動きができなくなり、改めてじーっと目の前の男を見つめた。そしてよく見るとその男はランニングシャツにウェットズボン、体毛もうすく、顔は確かにゴリラだが、頭はビシッとそろえた今の僕と同じパンチパーマ姿をしていた。

「この野郎ー、人が仕事から帰ってくればいきなりゴリラ、ゴリラって、気に障ることを何べんもぬかしやがって!!」

そのゴリラ男あらため、追島さんはそう叫ぶと、いきなり僕のことをむんずと捕まえ、太もものような腕で締め付けてきた。

「うげげーーーー」

「あ・・・!追島の兄貴、すんませんそいつ新人なもんで、勘弁してやってください」

「新人?」

「馬鹿野郎、新人も糞もあるか」

追島さんの太い腕はさらにすさまじいパワーで僕の首をしめつけてきた。

「ぐえ、くるちー…」

あまりの苦しさに、僕の意識は遠~くへ、飛んで行きそうになっていた、そんな中、聞き覚えのある声がかすかに僕の耳に響いてきた。

「おう、追島帰ってたのか、ご苦労だったな」

その瞬間、僕を締め付けていた太い腕の力が抜け、遠くへ行きかけていた意識も徐々に回復した。
そして気が付くと僕と追島さんの前には、親父さんの姿があった。

「おやっさん、遅くなりましたが、追島ただいま戻りやした。」

追島さんは、膝に手をのせて親父さんに挨拶をした

「おう、お疲れさん」

そういうと、親父さんは僕を指さし追島さんに話しかけた。

「今日からうちに入った新人の吉宗だ、追島おまえもしっかり面倒みてやれ」

「はい!」

追島さんはそう返事をすると、今度は僕の方を振り返った。そしていきなり僕の頭をむんずと右手で鷲づかみすると、ひょいっと片手で僕の身体を持ち上げ、僕の顔をじーっと見た。

「ふん!なるほど、こいつが例の新入りっすね」

追島さんは、そういいながらうれしそうに微笑んできた。そして片手でつかんだ僕の頭をさらに天高く持ち上げると

「俺は鬼瓦興業のゴッツ追島だ、お前なかなか色男だなー」

にっこり笑って話しかけてきた。

「い、、いえそんなことは…」

僕は、苦笑いをしながら答えた、すると追島さんは今度は突然打って変わったように恐い形相にかわり、どすの利いた声で

「俺はなー、昔からお前みたいな、色男が大嫌いなんだ。おまけに、何べんもゴリラ、ゴリラって人の気に障ること抜かしやがって、これからたっぷり可愛がってやるから、よろしくなー、新入り」

「…よ、よろしくお願いいたします…」

僕は恐怖におびえながらも、必死で返事した。

そんな様子を今まで黙って見ていた鉄が、

「さ、さすがは吉宗の兄貴だ、追島の兄貴をいきなり会った初日に、ゴリラ呼ばわりできるなんて…」

キラキラ輝く感動の目を僕へ向けていた。

「それもそうだなー、この追島を初対面からゴリラ呼ばわりするとは、お前なかなかたいしたもんだぞー吉宗、がはははは!」

親父さんはうれしそうに、これまた大きな声で笑い始めた。

「い、いや違います・・・。そんなつもりじゃ!」

僕は恐る恐る横を見た。するとそこには更に怒りの表情をました、追島さんが僕を睨みすえていた

「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

僕はこれから始まる寮生活に大きな恐怖と不安を感じながら、追島さんの右手の下、捕らえられた野うさぎのように、ぶらん、ぶらんと、つるされていたのだった。

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