見出し画像

侠客鬼瓦興業 第17話めぐみちゃん指名手配

閻魔の異名を持つ刑事の出現に、めぐみちゃんは大慌てで、露店の下にもぐってしまった。つられた僕も慌ててダンボールで彼女を隠し終えると
「これでよし」
几帳面なクセから、指さし確認をして立ち上がった。
そして露天の外に目を移し、ギョッと震え上がった。

「何がこれでよし、なんだ・・・」

「ぐえっ!?」

そこには鋭い眼光で僕を睨みすえている、ボーリング玉のような頭の男が立っていたのだった。

「見ねえ面だな…」

ボーリング玉男は手にしていたパイプをくわえながら僕をなめまわすように見ていた。

「き…、昨日入社したばかりで…」

僕は露店(さんずん)の下で隠れている、めぐみちゃんのことが、ばれていないかドキドキしながら答えた。

「新入りか、ふーん」

ボーリング玉男は、まるで蛇のような気味の悪い目でじーっとこっちを見ていた、僕はその異様な雰囲気に耐えられず、緊張しながら言葉を発した・・・

「あ、あの、ぼ、僕の顔になにか?…」

ボーリング玉男は僕の言葉に返事もせず、無言でこっちを見ているだけだった。僕は足をががくがく震わせ、脂汗でぎっとり額を濡らしながらも必死になってごまかし笑いを浮かべた。

「…何がおかしいんだ?」

「え?」

突然の言葉に僕は青ざめてしまった。

「何がおかしいんだって聞いてんだ」

ボーリング玉男は、まるですべてお見通しといった目で、僕に追いうちをかけてきた。

「い、いやあの、別に、その」

僕はその場から逃げ出したい気持ちだった。しかしそんなことをしたら、下に隠れているめぐみちゃんが、そう思うと逃げることもできず、ただただ男の前で蛇に睨まれた蛙状態と化していた。

その時、聞きなれた大きな声が、僕とボーリング玉男の間に割って入ってきてくれた。

「あららーこらあ、閻魔の旦那じゃねーすか、どうしたんすかこんな所に?」

声の主は野菜の箱をかかえた銀二さんだった。

(閻魔の旦那って、それじゃこの人が、鉄とめぐみちゃんが慌てていた閻魔さん!?)

僕はここでボーリング玉男が閻魔のハゲ虎という刑事だと理解した。

「あー、こいつっすか、こいつは昨日からうちで働いている、吉宗ってやつでさあ、まったく気が小さくてね」

銀二さんは抱えていた野菜の箱を地べたに降ろし、胸ポケットからたばこを取り出した。

「新入りか、確かに気が小さそうで、お前の所にしちゃ珍しいやつだな」

ハゲ虎はしばらく僕をじーと見ていたが、突然眉をぴくっと動かし

「お前なんだ?その顔の傷は?」

「え?」

「夕べこの近くで喧嘩があったらしくてな、おめえ心当たりはねえか?」

「…!!」

ハゲ虎はそう言うと、再び蛇のような目でこっちを見た、僕はその沈黙に耐えきれず、思わず口を開きそうになったその時

「喧嘩?ははは、旦那、まさか、見て下さいよこの情けない面構え、こいつが喧嘩なんてするわきゃねーでしょ」

そう言いながら銀二さんは、僕とハゲ虎の間に割って入ってきた。

「それに聞いた話じゃ、犯人はどえらい鬼みたいに強い男だったんでしょ、俺なら分かるけど、こいつのどこが鬼みたいなんすか、はははは」

銀二さんはたばこをふかしながら笑った。ハゲ虎は再び僕をギロッとひと睨みしたあと、今度は銀二さんに向きなおった。

「確かに、こいつじゃ無さそうだな」

「でしょう、旦那」

「それじゃお前か、銀二、昨日の夜は何してたんだ?」

「やだなー旦那、俺にはアリバイがあるっての、昨夜はこの裏の倉庫で、これ相手にこれこれ、ははっは」

銀二さんは、小指をつきたてながら、いやらし笑顔で腰をかくかく振って見せた。ハゲ虎は呆れた顔で銀二さんを見ていたが、しばらくして奇妙な顔で笑いだした。

「あいかわらずに、スケこましてやがるのか、いい加減にしねえと、いつか変な病気もらっちまうぞ」

「そんなへましないっての、ははは」

銀二さんは笑いながら答えた。ハゲ虎もいっしゅん銀二さんと一緒に笑っていたが、すぐに元の気味の悪い顔にもどると

「まあ、喧嘩っていっても被害者の連中も、札付きの悪だ、俺にとっちゃどうでも良いことだ。そんなちんけな事件の犯人より、今日はこいつの事を聞きに来た」

ハゲ虎はそう言いながら胸ポケットから、1枚の写真を取り出して僕に見せた。

「おい、新人、お前この娘に見覚えはないか?」

僕はおそるおそる写真に目をやって、再び青ざめてしまった。

「うぐ!?」

そこには少し怒ったような顔の、めぐみちゃんの姿が写し出されたいたのだった。

「この近くで見かけたっていう目撃証言があるんだが、見覚えあるだろう、ん?」

ハゲ虎は、写真を僕の顔に突きつけながら睨み据えてきた。僕は動揺しながらも頭の中で、めぐみちゃんの言葉を思い出していた。

『その刑事に私の事を聞かれても、知らないって答えてね』

彼女と約束を守るために、僕はひきつった顔で

「…し、…知らない、です…そんな子、見たこともないです…」

ハゲ虎はそんな僕をじーっと見ていた。

(だめだー、このままではめぐみちゃんが隠れていることがばれてしまう)

僕がそう思った時、以外なことにハゲ虎の恐ろしかった顔が笑顔に変わった。

「はははは、どうやらお前さん、何も知らないようだな、分かった、」

そう言いながらハゲ虎は、めぐみちゃんの写真を胸に収めてしまったのだった。

「銀二、仕事の邪魔して悪かったな」

ハゲ虎はそう言うと、銀二さんの肩を軽くポンとたたいて、神社からあっけなく出て行ってしまった。

銀二さんはそんなハゲ虎の後ろ姿を見つめていたが、ふっと鉄に目配せをした。鉄も察知したのか、こくりとうなずくと、ハゲ虎の後をコッソリ付けて行った。

「閻魔のハゲ虎のことだ、油断はできねえからな」

銀二さんはふうっと息を吐くと、小声で隠れているめぐみちゃんに向かって

「めぐみちゃん、鉄が戻るまで、もう少し辛抱して隠れてた方がいいな」

「は、はい」

めぐみちゃんは三寸の下から小さな声で銀二さんに返事した。

銀二さんは今度は僕に向かって

「めぐみちゃんが、やつに見つかったら大変だからな、しっかり見守ってろよ、吉宗」

「は、ハイ!!」

僕は緊張しながら返事をした。

「俺も仕事に戻らなきゃなんねーから、鉄の知らせが来るまで油断すんじゃねーぞ」

そう言うと、もとのたこ焼売場に戻って行った。


銀二さんがいなくなり、鉄の報告を待ちながら、僕は今まで起きたことを頭に浮かべながら、無言で立たずんでいた。

そして僕の足元で隠れているめぐみちゃんもじっと、息をひそませていた。

僕はふっと、めぐみちゃんのさっきの言葉を思い出した

『私、人を好きになっちゃだめなんです』

僕はその言葉の理由がうっすらと分かってきた。

(人を好きになってはいけない、そうか、そうだったのか、めぐみちゃん)

僕は悟ってしまった、そう、実はめぐみちゃんは何らかの事件に巻き込まれて警察から指名手配を受けているのではないか・・・
ハゲ虎刑事が手にしていた彼女の写真、そして昨夜の鉄のめぐみちゃんのことを聞いた時の青ざめた顔。

『人を好きになってはいけない』

その言葉の真意は、犯罪に手を汚してしまった彼女が恋愛をすることで、相手に迷惑をかけてはいけない、という彼女のやさしさからでた言葉だったんだ。

僕はそう気がついた時、胸の中がかきむしられる思いだった。

(めぐみちゃん、君の笑顔の裏側にはそんな深い悲しみの秘密があったんだね)

僕は露店(さんずん)の中で目にいっぱい涙をためていた。

そして僕は面接で出会ったときのめぐみちゃん、やさしく僕の傷を治療してくれた時のめぐみちゃん

そして、

『頑張ってくださいね、私吉宗くんのこと応援してますから』

そう言いながら昨日の夜、ニッコリ笑って微笑んでくれた、彼女の明るくやさしい笑顔が頭の中で蘇ってきた。

(!?、まて、早とちりはダメだぞ、あんなに明るくやさしい笑顔のめぐみちゃんが犯罪を犯すはずはない、そうか、そうだったのか)

僕はじっと立ち尽くしながら、その目から大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。

「そ、そうだったんだね、めぐみちゃん」

僕は泣きながら小声でぼそっと呟いた

(めぐみちゃん、君は無実の罪を着せられて、警察から追われていたんだね)

(なんて悲しい十字架を背負わされていたんだ、こんなにやさしい子にこんな辛い運命を背負わせるなんて、神様はなんて意地悪なんだ・・・)

「うぐ、うぐおおおおおおおおお〜?」

僕は思わず嗚咽しながら泣きだしていた。

「うぐぇ、うぐぇ・・・」
号泣してるうちに僕は、哀れなめぐみちゃんが愛おしくて愛おしくてたまらなくなってしまった。
そして、その高まった感情を抑えることが出来なくなってしまった僕は・・・

「めぐみちゃん、ぼ、僕は、僕は君が好きだ!」

ついに下で隠れているめぐみちゃんに、その熱い心を打ち明けてしまった。

「…!?」

三寸の下でごそっと動くめぐみちゃんの音が聞こえた。

僕の熱い胸の高まりは、さらに頂点へと達した。そして号泣しながら僕はこう繰り返した。

「めぐみちゃん、僕は君を愛しています!」

「愛しています!君を愛していましゅ!!」

「え!?」

めぐみちゃんの驚きの声がかすかに聞こえてきた。

「何も言わなくていい、君のつらく悲しい秘密、僕にはすべて分かっているよ、めぐみちゃん・・・」

「…………」

「すべての秘密を分かった上で僕は、僕は…、僕は君を心から愛しているんら…」

出会って間もないにもかかわらず、僕は高まる感情の赴くまま、めぐみちゃんに愛の告白をしてしまったのだった。

それが、更なる恐るべき試練の道への、幕開けだったとも知らずに・・・。

続き
吉宗くん愛の告白はこちら↓

前のお話はこちら↓


第一話から読んで下さる優しい方はこちら↓

侠客鬼瓦興業その他のお話「マガジン」

あとりえのぶWEBサイト

あとりえのぶLINEスタンプ
楽しく作って公開しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?