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学校の先生がデザイン思考を体験してみた 【週刊新陽 #143】

今年は個人的にも学校としても色々な事に挑戦していきたい!と先週号に書きましたが、年が変わる前にも新陽高校の先生たちが挑戦したことがあったので、今週の『週刊新陽』でそちらを紹介したいと思います。


『プレゼント体験』ワークショップ

先生たちが挑戦したのは、スタンフォード大学 d.schoolのプログラムとして広く知られているデザイン思考の実践ワークショップ。

クリスマスも近い12月21日(木)、教職員の対話の場『中つ火を囲む会(通称:中つ火)』で、『プレゼント体験を新しくデザインする』ペアワークを行いました。

STEP 1:インタビュー(共感)

まずはパートナーが持っているプレゼントの経験について、どのようなプレゼントを誰に対してどのような状況で渡したことがあるのか、お互いにインタビューします。

聴くコツは、出来事だけではなくストーリーや感情を掘り下げること。インタビュアーはメンタルモデルを活用し、自分の価値観や評価判断を脇に置いて相手の「大切なこと」を探す事に集中します。

STEP 2:問題定義

次に、インタビューから明らかになったことを整理し、いくつかの「ニーズ(相手がプレゼントを贈る体験で実現したかった事)」と「インサイト(気付き)」を明確にします。

こうして、パートナーが潜在的に抱えていた課題を、自分の着眼点を使ってリフレーミングしていきます。

STEP 3:アイデア創造

解くべき問題を明確にしたら、次は解決策を生み出します。

実はここからが先生たちの新たな挑戦。STEP 1〜2は、中つ火でもよく行う傾聴やリフレクションに近いワークですが、アイデア創造やプロトタイピングという「生み出す」経験はあまりやったことがありません。

STEP 2で定義した問題を解決するアイデアを考える時のポイントは「正解」を出そうとしないこと。上手な絵でなくてよいので、パートナーのニーズを満たすアイデアを描いていきます。そのためにも「質より量」が大事。

たくさんアイデアを考えたらパートナーに提案します。その場でフィードバックをもらいますが、この時、アイデアの正しさを主張して説得したくなる気持ちをグッと我慢して、むしろ相手の気持ちやニーズをより深く知るための機会として共感しながら聴くことに徹します。

STEP 4:プロトタイプ

フィードバックを受けて再度アイデアを構築し直し、今度は、さらにそれをカタチにする、というステップです。

プロトタイプ(試作品)は、空き箱や紙コップ、折り紙など身近にあるような材料で手軽に作るぐらいがちょうど良いようです。大切なのは、提案したいアイデアを実際に試してもらうことなので、パートナーが触ったりリアクションできるようなものを作ります。

すぐに材料を手に取り作業に入る先生がいる一方でなかなか手が動かない先生がいたり、一人で黙々と作業するタイプの先生と、お喋りしながらアイデアがさらに膨らむ先生もいたりして、普段は見えない一面が出るのもこういうワークショップの醍醐味だな、と感じました。

STEP 5:テスト

最後は、アイデアを具現化したアイテムをパートナーに提示して、実際に使っている様子を観察したり、感想を聞いたりします。

本来のデザイン思考的アプローチであれば、ここでもらったフィードバックを受けてさらにアイデアを再考し、プロトタイプを作り直すのですが、今回はここまで。

2時間弱という限られた時間ではありましたが、相手のことを考えて生み出した『新しいプレゼント体験』は、提案する方もされる方も熱が入り、外の寒さを吹き飛ばすほど盛り上がっていました。

体験を通してアンラーンする

この日のメインファシリテーターは熊平美香さんにリモートでお願いしていましたが、デザイン思考のワークショップはかなりタイトな流れで、美香さんから「では始めてください」「はい、終わりでーす!」と声がかけられサクサク進んでいきました。先生たちにとってはそれも新しい体験だったと思います。

最後に、全体で他のペアのアイデアを共有して、この日の体験を振り返る対話を行いました。

・どうやって実際に人と関わり、テストし、プロトタイプの方向性を変えましたか?
・未完成のワークを他の人に見せるのはどんな感覚でしたか?
・ペースはどうでしたか?普段の仕事と比較して、早くて繰り返しの多いサイクルをどんな風に感じましたか?
・もしまたデザイン思考を実践するとしたら、次はどこに戻って何をしますか?どの部分を再び繰り返しますか?
・どの原則や手法を明日からの仕事に取り入れますか?

「相手のニーズを引き出すステップについて、これまでは重要なことほど時間をかける時も大事だと思っていたが、決められた時間の中で複数選択肢をもつことも重要だと考えるようになった。」

「アイデアを具現化する際、作業開始前にある程度のイメージが必要だと思っていたが、ミッションや目指すべきことさえ明確であればカタチにはなると分かった。」

「人に何かを提案したとしても受け入れてもらえないのではないか、失敗したくない、という気持ちがあったが、実際にやってみると意外と提案は受け入れてもらうことができたし、フィードバックをもらうことはとても嬉しいことで、素直に受け入れることができれば相手に提案をすることはとても楽しいことだと感じた。」

いつもの仕事との違いや、自分の思い込みに気付くなど、様々な発見があったようです。

ハードルを上げない

実は今回、中つ火で『プレゼント体験』のワークショップをやってみよう、となった背景があります。

新陽の単位制の生徒たちは今年度、「総合的な探究の時間」のテーマ「ソーシャルアントレプレナーシップ(社会起業家精神)」に基づき、起業体験プログラムのStartup Baseに取り組んでいます。

11月の後半に、身近な人や社会の困りごとを解決するアイデアを生徒一人ひとりが考えてプレゼンするアイデアピッチ大会を行いました。この後、みんなのアイデアから良いと思うものをいくつか選び、プロトタイプの制作を行う、というプロセスを実施します。

11月のアイデアピッチの様子

でも、アイデアを生み出すことも、プロトタイプすることも、先生たちにはあまり経験がありません。そのせいか、アイデア創出もプロトタイプも難しいもの、と考えてしまいがちのような気がします。

私自身も昔は、良いアイデアを出そう、ちゃんとした試作品を作らなきゃ、と思っていました。でも、大事なのはそこではない。上手くやろうとしなくていいし、正解なんてない。そう思って気負わずやってみたら、たくさんアイデアが出てくるようになり、そうすると時に面白いアイデアを思いつくことがあります。下手なお絵描きみたいなペーパープロトタイプでも、怖がらずに誰かに試してもらうことでアイデアがブラッシュアップできました。

だから先生たちにも、今回の体験を通してなんとなくでもイメージを持ってもらい、ハードルが下がれば、と思っていました。

ワークショップの後、「今回の体験を経て、プロトタイピングとは熟考して取り組むものだ、と思っていたが、もっとリズム・テンポ良く取り組むものだと考えるようになった。これからは、まず形にしてみること、それをシェアすることに取り組んでみようと思う。」とリフレクションしていた先生もいます。

先生も生徒も、「まずやってみる」のマインドで、新しいアイデアを作ることを楽しんでもらえたら良いな、と思っています。

【編集後記】
Startup Baseの11月のアイデアピッチ大会は、一人39秒という持ち時間で1・2年次の生徒全員が参加。どの生徒も自分のアイデアを人に伝える経験をしたことは、とても貴重で、意義があったと思っています。ここからアイデアを選別しブラッシュアップし、そして人と協力して商品やサービスという「カタチ」にしていく中で、生徒たちがどんな経験をし、どんな変化や成長が見られるのか楽しみです。こちらについても必ずレポートします!

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