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留学して高校生の理想の自己像を探究することにした先生の話 【週刊新陽 #177】

敬老の日の三連休後半、初めて函館に行きました。

札幌に住むようになってから「函館に一度は行きたい」と思いながらタイミングがないまま過ぎてしまった3年半。

この度、新陽高校を退職してイギリス留学する山上徹先生が地元の函館に帰っていると聞いて、これはチャンスと、渡英前の山上先生にインタビューしに函館まで行ってきました!


イギリスの大学で研究したいこと

8月末で新陽を退職し、イギリスの大学の博士課程に進む山上先生。進学先のウォーリック大学(University of Warwick)は、英国のウェスト・ミッドランズ(West Midlands)州コヴェントリー(Coventry)市にある国立総合大学。世界大学ランキングでは世界トップ100に入る名門校です。

指導教員は、山上先生が学部時代から知っていた"超"が付く世界的に有名な先生だそうで、「この方の元でPhDをやるためにウォーリック大学を選んだ」とのこと。そこまでの方に出会い、そしてその方に師事することができるなんて素敵ですね。

英語学習のモチベーションに関して研究を行う山上先生の研究対象は、日本の高校生

(以下、山上先生が素人の私にも分かるように噛み砕いて話してくれたことを、私なりに理解して書いたものなので、専門的には正しくない部分があるかもしれません。特に、理論について文献のリファレンス等とっていません。ご了承ください。)

近年、外国語学習におけるモチベーションの研究では、『理想L2自己(Ideal L2 self)』という『L2動機づけ自己システム(L2 Motivational Self System)』理論の一部が援用されてきました。(L2とは、第二言語のこと。)

たとえば、「英語が流暢に話せるようになって、海外で仕事をしている自分」という理想像があるとそれが英語学習のモチベーションになり、この「理想の自分」が鮮明にイメージできればできるほど、目標に向かって積極的に努力する傾向が強くなるそうです。

その理想像が"英語ネイティブ"とするのがこれまでの主流だったようですが、山上先生は、それは一つの言語を極めるモノリンガルな思考に基づいていて、現代の子どもたちには必ずしも当てはまらないのではないか、と考えているそう。

今の中高生は、YouTubeやTikTokなどで様々な英語に触れる機会があるし、完璧ではない第二言語で話す動画も多い。つまり、日本語も英語も完璧ではないけど話せる(それでいい)、という状態が理想像となり得るのではないか、と。

高校生にとって「理想の話者」とはどういうものなのか?

その理想像に至ったプロセスが分かれば、英語教育のアプローチが変わる可能性がある。生徒の理想に合わせたクラスルームを作ることもできるかもしれない。このテーマで、生徒一人ひとりを質的に見る学習者中心のアプローチで研究していくそうです。

今回、円安の煽りもあり、イギリスでの授業料や生活費などかなりお金がかかることを心配していた山上先生ですが、なんとEconomic and Social Research Council (ESRC)から授業料全額と生活費3年9ヶ月分の奨学金がおりることになりました。加えて、研究費も出るとのこと。さすがです!

新陽高校の実践で生まれた問い

今回の奨学金は、研究計画と実績をもとに採択されたようですが、新陽での3年5ヶ月の経験が実績のストーリーとして評価されたと思う、と話してくれました。

新陽に来る前(正確には新陽での初年度まで)、大学院で研究していた山上先生ですが、実際の生徒と触れ合ってみると、アカデミックの世界で一般的にあったアンケートが「全然使えない」と思ったそうです。

「一体、何が生徒の理想なんだろう?」と考えたことが、実践とさらなる研究の始まりでした。

そもそも英語がどうこう言う前に、自信がない生徒が多い。「自分には無理」「これしか出来ない」と言う生徒に、山上先生が心がけたのが、一つでも、一言でも、生徒に声をかけること。

英語へのモチベーションや留学よりも、まずはもっと手前の学校生活で、後ろ向きになる必要はない、自分でも案外いけるんだと気付いてもらいたかったからです。

英語の先生としてだけでなく、メンター(担任の先生のようなもの)や国際交流の担当としても生徒と深く関わっていた山上先生。

明るくフレンドリーなキャラクターで、生徒から懐かれる存在でありながら、どんな場面でも教員として生徒との距離感を保ち、生徒に寄り添い生徒と真剣に向き合う姿勢が印象的です。みんなからの信頼も厚く、全校で壮行会が行われた最終日は、涙が止まらない生徒が続出。

英語は苦手だったけど山上先生の授業を受けて好きになった、という生徒は少なくありませんし、山上先生を中心に外国語科が進めてくれた短期留学の仕組みのおかげで、以前より少しずつ増えつつあった海外に関心を持つ生徒が急増しました。

高校生のポテンシャル

海外に関心を持つ生徒が増えたというよりは、顕在化したと言った方がいいかもしれません。

短期留学に関するアンケートをとったところ、予想以上に「行ってみたい」と思っている生徒や「行かせたい」と考えている保護者がいることが判明。そこで、エージェントに来ていただき説明会を行いました。先生たちがPRした甲斐もあり、1年目から50名近い生徒とその保護者が説明会に参加しました。

さらに「行くのが不安」という生徒のために、引率付きのコースを作りました。ちなみに帰ってきた後に「先生いなくてもよかった」と言われ「えーっ」と思ったそうです(笑)。まぁ、それも行ってみたから言えたのでしょう。

そして、2年目はほとんどPRしなかったにも関わらず、説明会に1年目同様、50名以上の生徒が参加してくれました。

山上先生曰く、1年目に留学した生徒が滞在中の様子をInstagramなどでアップし、他の生徒がそれを見て「あの子でもやれるんだ」「こんな感じか」とハードルが下がったことで、2年目に挑戦しようとする生徒が増えたのです。

イメージできることが生徒のモチベーションを上げる、これも新陽の実践の中で山上先生が実感したことです。

生徒は自分で気付いていないだけで本当はポテンシャルが高い、まだ何にでもなれる可能性があるのに「〇〇しかないから〇〇になる」と決めつけてしまっている生徒が多い、と、個人面談を繰り返す中で感じたそうです。

「Aは無理だからBにする」と生徒本人が言うのでよくよく聞いてみると、まだAをやってみてないじゃん!ということもしばしば。

生徒が自分のポテンシャルに気付く機会を作る、たくさん可能性があることを示す、少しでも興味を示した方向に背中を押す、それが先生の役割だと思うと話してくれました。

最後に、新陽の生徒たちへもう一度メッセージを、とお願いしました。

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高校生の3年間は絶対に戻ってきません。
自分もそう言われていたけど、大人になってようやくそれに気付いた。
大人が何百億円払ったって手に入れることはできない、かけがえのない時期です。

失敗しても誰かが助けてくれる。
失礼なことをしたり言ったりしても、「高校生はアグレッシブで良いね」と褒めてくれる。
大抵のことは何をしても許される。
そんな時代は二度とないのです。

だから、この高校生という特権を存分に活かして、とにかく楽しんで!!
その楽しさはEnjoyable。Funじゃない。
それが僕から生徒たちに伝えたいことです。

【編集後記】
山上先生が新陽に着任したのは、私が校長になったのと同じ4月。つまり同期です。その山上先生、なんとWelcomeメッセージを掲げて函館駅の改札で待っていてくれました!こんなの初めてで嬉しいのと、空港では見たことあるけどローカルの駅ではレアすぎて、最初から大爆笑。その後も山上先生のホスピタリティのおかげで楽しい(enjoyable)な函館ツアーとなりました。
9月18日(水)、山上先生がいよいよ旅立って行きました。先生の研究そしてイギリスでの生活が充実することを心から祈っています。

函館駅で出迎えてくれた山上先生
いよいよ旅立つ山上先生
(羽田空港での写真。ご本人のFBより)

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