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桜色の着物

桜色の布を染めるシーズンである。
こう書くと、たくさんの人が「ああそうだった」とうなずくだろう。

染色家の志村ふくみさんが、桜色の着物の布は
桜の咲き出す直前の木の皮を取って染めるのだと言った
という話は何十年も前の光村の教科書に載っていた。
大岡信の文章である。

もちろんテレビで本人が話しているのも何度も見たけれど
志村ふくみさんの名前を知ったのはこの文章なのだった。

花びらができる前の木の、「つぼみの元の芽」ができかける頃。
桜の木を遠くから見ると枝先が赤らんで見えるのである。
この文章を読んだ後では、そういう季節も楽しみになった。

テレビのニュースで「日本の桜が見たかった」という外国人観光客の
声を聞いた。

桜はね
例えば箱根の宮ノ下辺りの川沿いを平日歩くと良いんですよ。
と言ってみる。咲くのは四月の中旬以後
そこにもすでに観光客はあふれているのかもしれないと思うと
寂しいようなやるせないような。

地域の穴場も、公共物になってしまうのは
悪いことではないのかのかもしれないけれど。


今年はまだ桜はほとんど開花していない。
入学式にちょうど満開かも知れない。
桜は、入学式のものだ。
これから出発していく人たちの。




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