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世界トップレベルの思考とは|元なでしこジャパン大野忍さん

先日、元なでしこジャパン、W杯優勝メンバーの大野忍さんにインタビューをさせていただきました。フランスの強豪「リヨン」や、イングランドの名門「アーセナル」でも活躍され、日本女子サッカーリーグの歴代得点王という記録も保持されています。今回は、長年世界トップレベルでプレーされた中で感じた、「海外でプレーすることについて」、「トップレベルの選手に共通すること」、「海外で活躍するために必要なこと」、「日本人の強み」について語っていただきました。ワールドカップ優勝、オリンピックでは、銀メダル、銅メダルを獲得されている大野さんが、トップレベルで感じたことは必見です。

<プロフィール>
大野忍。元女子サッカー選手。
高校時代の1999年に日テレベレーザのトップチームに昇格。2003年に行われた、国際親善試合のアメリカ戦で日本代表デビューを果たす。2011年に行われた、FIFA女子ワールドカップでは右サイドMFとして全試合スタメン出場し、W杯制覇に貢献。FIFAが発表した大会優秀選手21人にも選出された。2012年に行われたロンドンオリンピックでは2トップの一角として起用され、準優勝に貢献。その後は、フランスの強豪「オリンピックリヨン」イングランドの「アーセナル」でもプレーするなどと、欧州でも活躍した。
2015年に帰国し、INAC神戸レオネッサなどで2020年2月までプレー。
現在は、INAC神戸レオネッサの育成組織であるINAC東京のテクニカルコーチとして活動する。

海外でプレーするということ

フランスのリヨンでプレーしていた時のことです。フランス人は、プライドの高い選手が多かった印象があります。英語を理解しているのに、理解できないふりをしたり、英語を話せても話さない選手がとても多かったですね。
普通に、「フランス語でしか喋らないから」などと言ってくるんです。英語で聞いても知らないフリするし、ナチュラルに「は?それ何語?」などと言ってくる選手もいました。

しかし、練習や試合では、特に何も問題が起きないんですよね。それがフランスの普通というか、外国人選手が通る道でしたし、トップレベルの選手は、わざわざ仲良くしようとしなくてもちゃんと仕事をします。「チームのためになってるなら、個人でやれることをやればいいでしょ」という感じです。まとまりや雰囲気作りにこだわってる、という感じはあまりしませんでした。日本だと、組織になった時にまとまって動くと思うのですが、フランスでは全くそのようなことはありませんでしたね。「個で勝てばいいじゃん」という考えがデフォルトでした。

しかし、イングランドではまた全く違いました。イングランドでは、日本がワールドカップで優勝したこともあり、日本のことをリスペクトしてくれました。しかしその中でも、組織力というより、個人力が問われるというのは変わらなかったように思います。「個でどれだけ力を発揮できるか?」というところですね。イギリスもフランスのサッカーに対する考え方や環境は同じで、組織というよりかは個人が重要でした。
「個人でやれることを、それぞれがやっていればチームにもつながるよね」という考えが根底にあったように思います。

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トップレベルの選手に共通する思考法

世界のトップレベルの選手たちは、例外なく「負けず嫌い」ですね。自分もそうなのですが、何事でも「勝負」において負けるということは許せないんです。「勝負」は勝つものだと思っています。

フランス、イングランドにいた時のことです。
普段は仲が良い選手同士が、トレーニングでのゲームの最中に本気の喧嘩を始めました。「勝負」になったら、友情は関係ありません。
皆、「勝つこと」に対する執念が凄まじいし、相手が友達だからと遠慮することは絶対にありません。それくらい勝負に対するこだわりが強いし、負けるのが嫌いなんです。結局その日は、お互い口を聞いていませんでしたね。
世界のトップになると、「勝ち」と「負け」の価値観があからさまです。皆、「勝つ」ことと「負ける」ことの意味を、本能的に理解しているんです。そして特に海外の選手は、「勝って喜ぶ」ためにプレーしています。
なので勝った時は、踊ったりと、狂ったように喜びを表現できるんですよ。しかし、その勝つことは、人から強制されるのではなく「自分の中から育まれるもの」でなければいけません。人から強制される「勝負」では、実力を発揮できないと思います。自分から、自発的に「勝負」をしに行くという心構えですね。もっと日本の選手が個人的に、「勝って喜ぶ」ことを目的にプレーできれば、日本サッカーはいい方向に進むと思います。

日本人選手がやめるべきこと

日本人が世界のトップレベルで活躍するためにやるべきことは議論されますが、自分は、「やめるべきこと」を明確にすることが大切だと思います。まず、私が思う「やめるべきこと」とは、「妥協してしまう」ことです。日本人はいい人なので、他人に何か言われたら、簡単に従ってしまいます。そうではなくて、自分が譲れないことは、我を通すことがとても大切です。自分が同意できないことを言われたら、「嫌です。それは違うと思ういます」と伝えるということです。

世界のトップレベルの選手たちは、例外なく皆、自分に意見に妥協しません。「違うな」と思ったら同意しない。納得できなかったら議論する。
そのプロセスを踏み、自分が信じることのできるものにベストを尽くしていました。そして皆、自分の信じるものを簡単には譲りません。
日本人は人に合わせることが得意な民族ですが、それを積極的に海外でやろうとすると。「自分の意見がない奴」というレッテルを貼られ、いいように使われて終わってしまいます。
リヨンやアーセナルといったビッグクラブでプレーして感じたのは、チームに合わせることは大切ですが、自分が大切にしていることは、「大事なところは譲らない」という心構えです。勝ちたかったり、試合に出たかったら「自分の意見」、「自分の信念」を簡単には曲げないことが鍵になってくると思います。

大野さん3

世界で感じた「日本人の強み」

日本人の強みは「追求できること」だと思います。特に、質に対する追求は素晴らしいと思いますね。そこが強すぎても上手くいかないのですが、質に対するこだわりは、世界トップレベルです。

例えば、パスが少しでもズレたら、日本人選手は嫌がりますし、自分も嫌なんです。しかし外国人選手は、「少しパスが浮いていても、ズレていてもやれよ」という考え方です。
味方から、当たり前のように雑なパスがきたり、パスミスをしても、「なんで走ってないの?」などと言ってきたりします。
パスを出した本人はなんとも思っていないし、そのパスを味方がトラップできなければ、受け手側のミスになるんです。しかし日本人は、受け手の気持ちを考えながら、質を追求してプレーすることができます。そこは大きな強みだと思いますね。外国の選手にはあまりない部分です。
質を追求してプレーすることで、動作や、チームとしての動きのスピードが格段にアップします。それは、チームにとってプラスになるし、監督も見てくれる部分です。しかし、どの質を追求するのかを見極める必要があると思います。
なぜなら、全ての質を追求する時間はないからです。どこの質を追求するのかを決め、それを信じてチーム全員でやり抜くことが、日本人が世界で通用するために必要なことだと思います。


インタビュー中、ご自身が長年、世界のトップレベルで戦う中で感じたことを熱く語っていた大野さん。現役を引退されてもサッカーに対する熱い思いは変わりません。現在は、ご自身もプレーされたINAC神戸の育成組織で指導者としてご活躍されています。大野さんの今後のご活躍に期待です!


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