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読書について(1):古典を読むべき?

今回は仕事上の必要性以外に、プライベートの趣味の一つでもある「読書」についてです。

ビジネスリーダーの読書

最近、出版され話題になっている興銀ご出身で現在、森ビル専務の堀内勉さんの「読書大全」を読んでみました。

私の読書は電車や出張の行き帰りや自宅で小一時間読むくらいなので、月に数冊程度。同時に2~3冊並行して読んでいるので、下手をすると3か月くらい積読状態になっている本もあります。

それでもこの歳まで、これまで紹介してきたビジネス書以外の書籍も読んでいるので、この本で紹介された名著・古典200冊のうち50冊弱は読んでいました。

学生の頃に読んだり、授業で読まされたものを含めて、記憶が曖昧なものもありますが、主な書籍を上げてみると、自分もそれなりに興味が赴くままに幅広く読んできたなぁと思いました。

「論語」「貞観政要」「レオナルドダヴィンチの手記」
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
「善の研究」「これからの正義の話をしよう」
「種の起源」「利己的な遺伝子」「共同幻想論」
「ホーキング宇宙を語る」「エレガントな宇宙」
「地中海」「銃・病原菌・鉄」「サピエンス全史」
「Gゼロ後の世界」「FACT FULLNESS」。。。

読書大全に記載された200冊は厳選されたもの、さらに300冊のリストも付いていますが、実際にはそれ以上の膨大な量の本をビジネスの第一線で仕事をしながら読まれ、このように内容をわかりやすく整理し、まとめられたことには本当に敬服します。

同じくビジネスリーダーとして、その読書量と博学で有名なのは現在、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんになるでしょう。

私も出口さんの書籍は数冊読んでいますが、以前書かれた「全世界史講義I」は、すでに文庫版になっています。

この本の宣伝で「訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える」と紹介されています。単に読書量だけでなく、教科書や一般に知られている歴史書は欧米中心の世界観がベースになっていることが多いのですが、中国はもちろん、イスラム圏やアジア諸国等の歴史書も読まれた上で、多面的にかつ、各地域で同時並行で動いてきた世界の歴史をわかりやすく書き下ろした解説は非常に新鮮でした。

昨年出版された「哲学と宗教全史」も、リベラルアーツの教科書・参考書として秀逸なのですが、ビジネス書大賞を受賞されたのも、世のビジネスリーダーには「哲学」が必要だと考えられているからでしょう。


読書と編集工学

膨大な量の書籍をわかりやすくまとめる、整理しつなぎ合わせるという観点では、千夜千冊で有名な編集工学研究所所長 松岡正剛さんが第一人者だと思います。

私が始めて松岡正剛さんを知ったのは「情報の歴史を読む」という本です。当時の識者の意見や過去の書籍の内容を構造的にわかりやすくまとめられ、ビジュアル面・グラフィック面でも非常に洗練された本でした。
まさに本の編集・編纂に対する工学(インダストリアル・デザイン)的なアプローチを感じました。

2003年に始められた「連塾」の内容をまとめた「方法日本Ⅰ~Ⅲ」
日本文化の底流に流れる考え、方法をいくつかの象徴的なキーワードを元に読み解いた大書でしたが、いまはこちらも文庫版が出版されています。


古典(原書)を読むべき?

さて、これらの読書の大家、ビジネスリーダーたちが紹介する書籍(古典や名著)をすべて読破しようというのは、いまを生きる皆さんには無理があると私は考えています。
古典の中には文体や翻訳が古くて、現代人にはわかりづらいことも多く、書かれている内容を理解するのに時間がかかるだけでなく、誤読してしまったり、深く読み解くことが難しいのではないと思います。
(自分の若い時は半ば強制的に授業で読まされたものも多くありますが、
 当時は先生から解説もありましたし。。)

であれば、今回紹介した書籍やNHKで放映されている「100分de名著」を見られた方がずっと効率的に、名著の概要と知識を得ることが出来ると思います。

さらに最近ではflierのような便利な要約サイトもあり、私も最近の書籍やビジネス書を手に取る前にはこちらで要約を読んでから、1冊買って丸々読むかどうかを考えています。

いまや古典だけでなく、毎月出版される書籍によって、私たちが読みたいと思う本や興味のある分野の本は日に日に膨大な量が積みあがっていきます。

そんな中で、古典や名著をわかりやすくまとめたものがあれば、ざっくり理解するためには積極的に利用した方がいいでしょうし、もし、もっと深く知りたいと思えば、原著や解説書を読んでみれば良いのです。

ただ、私としては「読書大全」の中の200冊中の残り150冊を読むよりも同時代人が執筆・出版し、世界の識者・ビジネスリーダーで話題になっている歯ごたえのある本を読む方に時間を割きたいと考えています。

たとえば、ユヴァル・ハラリ氏が書かれた「ホモ・デウス」は現代人の必読書と言って良いでしょう。


実は読書大全の堀内勉氏もインタビューの中で、乱読よりも「良い本をじっくりと読んで、それを自分のものにした上で、さらに自分の頭で考える」ことこそが重要だと述べられています。

哲学者のアルトゥル・ショーペンハウアーは、読書の方法論を論じた『読書について』の「自分の頭で考える」という章で、以下のように乱読を戒めています。
どんなにたくさんあっても整理されていない蔵書より、ほどよい冊数で、きちんと整理されている蔵書のほうが、ずっと役に立つ。同じことが知識についてもいえる。いかに大量にかき集めても、自分の頭で考えずに鵜呑みにした知識より、量はずっと少なくとも、じっくり考え抜いた知識のほうが、はるかに価値がある

この考え方は以前、紹介した「世界標準の経営戦略」で入山章栄教授が巻末に述べられていた以下の意見に通じるところがありますね。
つまり、ビジネスリーダーは古典からもビジネス書からも学べるところは学びつつ、最後は自分の頭で考えることが重要だと言っているのです。

 「経営理論を信じてはいけない」
 「経営理論こそが、あなたの思考を解放する」

現実の大きな意思決定の前で頭を悩める経営者や実務家にとっては、戦略フレームワークも経営理論のどちらも「新たな思考の軸」を与え、成功体験のバイアスや同調圧力といった感情論といったものから思考を解放して、ゼロベースで考える機会を与えてくれるはずだと。


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